やっぱすっきゃねん!VE-2
「ちょっと、オレに捕らせてくれるか」
集中していた2人は、一哉が見ているのに気づきもしなかった。
「コーチ!」
佳代も稲森も、驚いた表情のまま一礼する。一哉は右手を軽く上げて会釈した。
「練習を見に来たら、おまえがブルペンに居たんでな。ちょっと捕らせてくれ」
そう言うと、グラブを着けて稲森に代わってしゃがみ込んだ。
「さあ、投げてみろ」
真ん中低めに構える。
「行きます…」
佳代は稲森のアドバイスに気をつけながら、セットポジションから腕を振る。
放たれたボールが一哉のグラブを鳴らした。
(なるほど…)
佳代にボールを投げ返すと、“もう1球行こう”と再びグラブを構えた。
投球数が10球を超えた時、一哉は稲森の方を向いておもむろに語り掛ける。
「確かに使えそうだ。よく、気づいたな」
「あ、ありがとうございます!」
稲森は顔をクシャクシャにして喜んだ。自信はあったが、改めて認めてもらえて嬉しくなった。
「球速は100キロそこそこだろうが、腕が遅れて出てくるのと球のキレで、実速よりかなり速く感じるな」
稲森を讃えた後、今度は佳代に視線を向けると、
「佳代。もっと踏み出した足に体重を掛けろ。それと、少し横から投げてみないか」
「横から…ですか?」
「ああ。スリー・クウォーターくらいでな」
「ハイ、やってみます」
佳代はセットポジションに構えた。右足を上げて前に伸ばす際、さっきより身体を前に移動させるのを気をつけて。
右足のスパイクが地面を掴んだ。と同時に、ヒザを深く曲げて強く踏み込んだ。
上半身が軸を中心に回転すると、たたんだ左腕が前へと伸びる。ヒジを伸ばす瞬間、指先に力を込めた。人差し指と中指の指先に球がかかる感触を残し、ボールは放たれた。
一哉は目を見張った。投球動作の中で、身体は完全にこちら側を向いているのに、胸が弓のようにしなり肩が開かないことに。
ヒュンッ!
放たれたボールに可能性の高さを感じ、一哉の心が揺さぶられた。
(これで、ウイニング・ショットを持てば、コイツはかなり使える)
「正吾」
一哉は稲森を呼んだ。