やっぱすっきゃねん!VE-15
「デッドボール!」
顔をしかめ、脇腹を抑えて1塁に走り出す直也。ピッチャーは帽子を取って頭を下げているが、精神的ダメージは彼の方が大きかった。
4番の達也を迎えた初球。投げたのはシンカー。しかし、その変化は最初と比べられないほど陳腐なモノだった。
ひと振りで十分だった。打球は空高く舞い、レフトの金網フェンスを越えた。
100メートルを越えるホームラン。打たれた瞬間、ピッチャーは打球の行方を見ることも無く、ただ、マウンドに跪いた。
多島中ベンチから再び伝令が走り、ピッチャーの交代を告げた。
そこからは、たたみ掛ける攻撃だった。エースピッチャーが降板した今、青葉中の打線を止めるだけの力は多島中には無かった。
そんなターキング・ポイントを見ることも無く、黙々とピッチング練習を繰り返す佳代。
「澤田さん、そろそろ行った方がいいんじゃ…」
下加茂は試合の状況を見て佳代に訊ねる。
「そろそろって、何が?」
「打順…回って来ますよ」
これには、佳代の方が驚いた。
「本当に?今、何番」
「7番です」
「いっけない!下加茂、ありがと!」
ブルペンを飛び出ていく佳代。その後ろ姿に目をやりながら、下加茂は首を振り振り、
「緊張しすぎてなのか集中力かは知らないけど、あの人は向いてないな」
独り言を呟きながら、荒れたマウンドを均していた。
7番の加賀はヒットで出塁し、8番森尾が打席に向かう時に佳代がベンチに飛び込んで来た。
慌ててヘルメットと手袋を着ける。
「ねえ、状況は?どうなってんの」
そばに座る直也に試合展開を聞こうとするが、
「いいから、さっさとネクストに行けよ!審判にドヤされるだろうが」
強い口調で一蹴され、返す言葉もなくバットを持つとネクストサークルに走っていった。
(ウソッ!いつの間に1‐5になったの?)
バックネット横の掲示板。1年生がやっている点数付けには、この回、4という数字が書かれていた。
今度はグランドを見ると、ピッチャーも変わっている。
森尾は四球で出塁する。2アウト2塁、1塁。追加点のチャンスで佳代に回ってきた。
ピッチャーは右のオーバーハンド。初球は真ん中の真っ直ぐ。が、見送った。2球目、3球目はボールだったが、佳代は虚ろな目で見逃していた。
(ストライクでもボールでも、顔色も変えないで。私に出来るかなあ)
結局、すべての球を振ることも無く、三振に終わった。
慌ててベンチに帰って来る佳代。
「おまえ、何見て…!」
「カヨッ!ちょっと待った」
直也の声を稲森が制した。