やっぱすっきゃねん！Ⅲ⑥-12
（何やってんだ！私は）
誰もが牽制アウトと思った。
「タイムッ！タイムッ！」
主審が両手を上げて大きく振ってピッチャーを指差す。
「ボークッ！セカンドライナー進塁」
どうやら、プレートから軸足が離れる前に肩が動いたようだ。
（よかった～！あれでベンチに帰ってたら何言われるか…）
佳代は主審の判定に頷くと３塁へと進んだ。
足立と佳代はサインの変更があるかと永井を見るが、動きはない。つまり、３球目を足立が打ち、佳代はホームに突っ込む。
初球を内角にストライク。２球目を外角低めにボール。次がサインの出た３球目。
ピッチャーはセット・ポジションから投げた。ボールは外の高め。足立はバットを被せるように振った。
金属音と共に、打球は高く弾んだ。佳代はホームへ突っ込んで来る。ショートはジャンプしてバウンドしたボールを掴み、素早くホームに返す。
佳代はスライディングし、いっぱいに伸ばした左手でホームを触れた。
キャッチャーはボールを捕り、素早くセカンドへ投げた。滑り込んで来た足立を、セカンドは余裕でタッチする。
「ライナーアウトッ！」
先制に成功した青葉中。ホームを踏んだ佳代にベンチはハイタッチや歓声で出迎えるが、彼女自身、あまり嬉しそうでない。
ライナーで出ていた時は忘れられたが、ベンチに戻ると再びピッチャーの事で気が重くなり、喜ぶ余裕も無くなっていた。
４回表、多島中の攻撃は１番から。先制された事により、円陣を組んで気合いを入れ直す。
投球練習を終え、達也がマウンドに駆け寄った。
「おまえも気合い入れて行けよ」
「分かってるよ」
「アイツら、先制されてしゃにむに取りに来るぞ」
「ああ…」
達也はマウンドからホームへ駆け戻って行くが、
（アイツ、本当に分かってんのか？）
先ほどまでみせた、気持ちが前に出る様子が無いことが不安に思えた。
達也の思いとは裏腹に、１番、２番をフォークで三振に取り、３番も２ストライク１ボールに追い込んだ。
（もう１球これで）
達也のサインはフォーク。
（同じ球かよ。１球外すかスライダーの方が良いんじゃないか？）
直也は違うと思ったが、達也のリードを信じてサインに頷く。
人差し指と中指を大きく開き、ボールを挟み込む。
背番号がキャッチャーに見えるほど身体をひねり、右腕を振りだす。手首のスナップを効かせず、ボールをリリースした。
真っ直ぐと変わらぬスピード。回転の掛らぬボールは、空気の抵抗を受けてバッター手前で大きく沈む、はずだった。