やっぱすっきゃねん！Ⅲ⑥-11
あっさりと２アウトとなり、佳代の打順になった。
（そういえば、投げる方ばかりを気にして相手ピッチャーを見て無かったな）
何の情報も無いまま佳代は打席に入った。ピッチングにかまけて見る余裕もなかった。
（…外に誘ってみるか）
キャッチャーは外角低めを要求する。ピッチャーは頷くと変則的なフォームから１球目を投げた。
（来たッ！）
シュート回転で外に逃げるボールを、佳代はタイミングを遅らせて強く振った。
ボールを叩く瞬間、左腕を押し込む。乾いた音を残して３塁へ鋭い打球が飛んだ。
サードは右へ飛びグラブを伸ばすが、一瞬速く打球が抜けた。
「行ける！」
佳代は１塁へ向かって走りだす。間違いなく長打だと確信した。が、打球はレフトのライン際を左で跳ねた。
「ファウル！ファウール！」
塁審の両手が上がった。
「ちぇっ！…きれたか」
１塁を駆け抜け、２塁のハーフラインで力無く止まって後戻りする。
多島中のバッテリーは打球を見て警戒し、続く２球目、３球目を身体の近くを厳しく突いてきた。
（１ストライク２ボールまでは真っ直ぐだけ…）
次は強い球でストライクを取りにくると思い、わずかに短くバットを握った。
キャッチャーはそれを見てサインを送った。
ピッチャーが４球目を投げた。真っ直ぐのタイミングで佳代はステップする。
（アレレッ）
ボールは急にブレーキを掛けて低めに沈んでいく。身体は前に流れだす。
佳代はテニスのボレーのように、右腕だけで必死にバットに当てた。
打球はフラフラと３塁側に舞った。打球を追ってサードは後方に下がり、レフトは前へ駆けてくる。
しかし、打球は２人の間で高く弾んだ。処理に手間取り、佳代は２塁を滑り込まず取った。
青葉中ベンチから久しぶりの歓声が上がった。
打順は１番に戻った。
永井は、バットに当てることに長けた足立に期待する。
（ここは３球目を狙うか…）
永井は身体を触り、足立と佳代にサインを送る。２人はヘルメットを触って頷く。
相手キャッチャーも、当然、それを見て“何か仕掛けてくる”と、警戒する。
互いが緊張感を高めて試合が再開された。
２塁ライナーの佳代が大きくリードを取る。ピッチャーはセットポジションから動きを見る。
ショートが定位置から２塁へダッシュすると同時に、ピッチャーの軸足がプレートから外れた。
（しまった！）
完全に遅れた。必死で２塁に飛び込む。ピッチャーの牽制球を捕ったショートのタッチが手に当たった。