Summer〜プロローグ-1
〜君がくれたもの〜
夏が終わり、秋がくる。そうして季節は巡り、また夏がくる。夏が終わらないで欲しい。夏が終わるとき感じる、あの不思議な切なさ。子供の頃、ずっと感じていた。いつからだろう?それを感じなくなくなったのは・・・。
暑い・・・。悠木は単純にそう思った。なにもすることがないというのは、彼にとって死活問題だった。『退屈は人を殺せる』昔誰かが言っていた。暇だ・・・
しかし、何もすることがないというのは少し違う気もした。8/10。登校日のない高校で初めての夏休み。部活だってバリバリのスポーツ系でもなかった。だからといって行かなくていいわけではないんだが。夏休み明けの文化祭。その時、彼ら音楽部のライヴがある。しかしそれも先のこと。“宿題”。彼にはやらなくてはいけないことがあった。そもそも、夏休みの最初で宿題を片づけて、休みを満喫するという予定は、妥協によってすでに中止されていた。手をつけてない宿題は、今くらいから初めてもギリギリくらいなのがだが。一歩を踏み出せないでいた。
そういうわけで、彼は今非常に暇であった。友達達は部活で青春の汗を流しているころだろう。午後の陽射しもまだまだ強い日中に遊びに出る気など起きるわけはなかった。
彼の部屋にエアコンはない。あるのは、回るときにカラカラとうざったい音を立てる年老いた扇風機。
悠木「学校なら・・・。エアコン聞いてるかな」
彼の通う学校は、彼の家から徒歩で五分ほどの所にある。自転車なら一分もかからないだろう。そう思い立つと、彼は部屋を後にした。
計算外だった。というか、忘れていた。行く途中にある“暑さ”を。首から腕からどんどん汗が噴き出してくる。それでも、数える間もないくらいに早く学校へは到着した。
音楽部の活動場所は別校舎になっている。後から追加で立てられたものだし、大きな音を出す部活だから、やはり離れていた方がいいのだろう。悠木は駐輪場をそのまま自転車で駆け抜けて、音楽室の前で自転車を止めた。
悠木「あち〜」
中に入った途端、涼しい風が全身を駆けめぐった。基本的に予算があるのか、文化部の活動場所は夏休み中でもエアコンが効いていた。それを目的か、部員も数名。そして、部員以外の人たちもちらほらと見える。
亜季「悠木じゃん。なにしに来たの?」
長瀬亜季。同じ音楽部のメンバーだ。ショートカットでスポーティな感じの子で、かなり可愛い。友達になる前だったら、間違いなく狙ってたんだけど、それも今更。
悠木「涼みにきたんだよ。悪ぃか」
亜季「だれもそんなこと言ってないじゃん。って言ってる私も涼みに来たんだけどね」
悠木「部活はいいのか?」
彼女は音楽部と水泳部を掛け持ちしている。今はこんなところで遊んでいられる時期ではないはずなのだが。
亜季「だって、今日の顧問の目がエロいんだもん」
悠木「そんな理由でサボるんかい・・・」
亜季「涼みにきてるあんたに言われたくないって」
悠木「俺は別に部活ねぇもん。練習室だって先輩入ってるし」
亜季「部活がなくたって、用事はあるでしょ?」
悠木「は?」
亜季「聞いたよ。終業式前後で三人も泣かせたんでしょ?モテる男はつらいね」
悠木「こっちから告ってもフラれてるけどな」
笑ってる彼女には、そんな浮いた噂が全くない。こんな可愛い子に男が付かないはずもないんだが。全員失敗に終わっている(俺は告らなくて良かった)。
亜季「ルックスはOKなのに、なんでだろうね」
こういう表情には、いまでもドキっとさせられる。今思えば、こいつとこんなタイマンで話せる男って俺くらいかも、と、優越感に浸ってしまったりする。
悠木「素行が悪いからな・・・。口も悪いし」
亜季「本当はいい奴なのにねぇ」
悠木「・・・。それが本心であるように願うよ」
亜季「考えておくよ♪」
そんなことをいってるうちに、練習室から先輩達が出てきた。一通り挨拶を交わして、先輩達は部屋を出ていく。カラオケにいくっぽい。
悠木「空いたな・・・・」
亜季「入るの?」
悠木「一人で入ってもしかたないだろ?」
亜季「手伝ってあげようか?」
悠木「そうだな。たまにはやっておかないと鈍るかもな」
言って少し後悔した。周りの視線が痛い。まぁ、男女二人で入るのだから、変な想像されてもしかたないのだが・・・