僕らの関係 プロローグ きっかけ-9
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「では、学祭の実行委員を決めたいと思いますが……誰か立候補する人はいませんか?」
クラス委員の須藤久美が声をかけるが、誰一人として反応を示す者はいない。
来る十月の第四週は学園祭。学校側としては男女共学となったことを世間にアピールしたい思惑があり、例年以上に気合が入っている。しかし、それはあくまでも学校側の意思であり、肝心の生徒達は冷めた反応。
「誰もいない場合、推薦でも構いませんが……」
「はい! それならユカリンがいいと思います!」
里奈が元気良く右手をあげると、ピンクのリボンで留められたツインテールがふわふわと揺れる。
「倉沢、今はホームルームなんだから、ユカリンは無いな」
担任の井口は爛漫な様子の彼女に眉をしかめる。
「ごめんなさーい。でも、由香さんはそういうの得意だと思いまーす。中学のときから面倒見良い子なんでー」
「そうですか、由香さんはそれでいいですか?」
「他に立候補したい人がいないなら私がやりますけど……」
「ほらねー、イイコでしょー」
「じゃあ女子は相沢さんで決定です。ただ、男子のほうも一人必要なので……」
「はいはーい、それならコータ……じゃなかった、幸太君がいいでーす」
またも内輪のノリを披露する里奈だが、大半のクラスメートも面倒なことを引き受けてくれるならと、異論を挟む様子がない。
「えっと、桐嶋君はいいですか?」
「……はい」
「それじゃあ我が一年C組の学祭実行委員は桐嶋さんと相沢さんの二人に決定です。
放課後に視聴覚室で打ち合わせがありますので、忘れずに参加してくださいね」
久実は必要事項の書かれたプリントをそれぞれ渡して席に戻る。
引き続き井口が代わって教壇に立つと、今週の予定と学生の気構えなど、ありがたい訓示を述べる。もっとも、大半の生徒は右から左に受け流すばかり。
ただ、教室を出る前に「倉沢は後で職員室に来るように」と言われたときは、苦笑が漏れた。
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お昼ごはんは学生生活の楽しみの一つ。皆一様に活気付き、学食だ、購買だと散っていく。
「あーあ、今日は学食かあ……、やだなあ、今月金欠だし……」
頼りない財布をチェックしながら恵はがっくりと肩を落とす。
「恵も自分でお弁当作れば?」
由香は水色のランチマットに包まれたお弁当を広げ、いただきますと手を合わせる。
「あたしにそれが出来ると思うか?」
両親が共働きな恵は、いつも幸太にお弁当を作ってもらっている。もちろん材料代は別途手渡しているが、学食に比べて五十円ほど安上がりだ。
しかし、昨日の悪ふざけのせいがたたってか、声をかけにくい。
仕方なく里奈を連れ立って学食に行こうとすると、幸太がいつものピンクのランチマットにくるまれた二段重ねのお弁当を持ってきた。