僕らの関係 プロローグ きっかけ-3
「由香ちゃんまで……」
「でもな、コウ、男なら女の一人や二人好きになるもんだぞ?」
「だって、女の子……」 ――わからないんだもん。
偽らざる彼の本心。
もちろん彼は由香、里奈、恵を嫌っているわけではない。
共働きの両親を持つ彼らは子供の頃からよく一緒に遊んでいたし、夏休みも四人で海や山などレジャーに勤しんだ。
ただ、最近幸太の中で三人に対する意識が変わり、どこかぎこちなくなっているのも事実。里奈の言うように恋なのだろうかと思ったものの、三人に優劣をつけることも、ましてや特別な感情を抱いているとはどうしても思えなかった。
いわゆる、姉弟のような感覚なのだ。
「なあ幸太、お前、セーツー終わってるよな?」
「え……セーツーって、そんな、当たり前じゃないか。やめてよ、恵」
女子に囲まれながら話したい内容でもなく、自然と声も縮こまる。
「だってさ、全然男臭くないし、背だって伸びないし……」
果たして精通の有無と関わるのかといえば疑問だが、これもため息の成分の一つだ。
「ねえねえケイチン、セーツーってなに?」
「セーツーってのはあれだ、ようするにコウが男の子から男になったっていうか、生理現象だな」
里奈が相変わらずとぼけた調子で聞いてくると、恵も言いづらそうに語尾を濁す。
「ふーん、なんかよくわかんないなー。ねー、ユカリンは知ってる? セーツー」
「へ、あ、んー、男の子じゃないからあんまり詳しくは……」
急に話題を振られた由香は恥ずかしそうに俯く。
「えー、だって大切なことなんでしょ? 皆知らなくていいの?」
「別にりっちゃんに関係することじゃないよ……」
「いや、そうとも限らないぞ。バカヤローな里奈だって年相応になれば彼氏だって作るだろうし、結婚だってする。そのときに、男子の生理現象をまったく知らないっていうのは困るんじゃないか?」
「うんうん、困る困るー!」
妙な理論を展開する恵に里奈が続く。おかしな展開になりそうな空気に幸太は由香に助けを求めるが、彼女は頬に手を当てたまま、俯き加減でブツブツ呟いているだけ。
「なあコウ、今からさ、男子の生理現象について里奈に講義してあげたいと思うんだが、いいよな?」
「え、ヤダヨ。そんなの保健の授業でやってよ」
「だって体育の谷川、黒板授業嫌いだからって実技ばっかするもん。教えてくれないよー」
筋肉から生まれたと言われるほどの体育バカの谷川を恨めしく思いつつも、ここで彼女達の傍若無人な振る舞いに屈していては心の第二次成長は遠くなるばかり。