僕らの関係 プロローグ きっかけ-12
――幸太ちゃんのことだからきっと悪くなくても謝ってくる。そしたら、優しい言葉と妥協の言葉をかければいい。それで強引にいつもに戻してしまおう。
そんな甘い見通しをつける由香だが、幸太は無表情のまま彼女に歩み寄ると、その手をとり、そっと口付ける。
「こう、たちゃん?」
いったいなんのつもりなのかと訝る由香だが、彼の舌が指先をちろちろ舐めたとき、それを理解した。
鉛筆の木片で切ってしまったのだろう。じくじくした痛みが指先にある。
先ほどまでは怒りに我と一緒に痛みも忘れていた。しかし、頭から血が下がると、すぐに痛みがやってくる。若干のくすぐったさというオマケつきで。
「由香ちゃん、痛くない?」
「うん、平気……」
幸太は鞄から絆創膏を取り出すと、由香の白い指に巻き始める。
「あ、ありがと」
「うん……」
幸太は少しだけ唇の端っこを上げて頷く。その顔はいつもの幸太に見えた。
――仲直りするなら今だ。いや、もう大丈夫かもね。だって幸太ちゃん、どこまでも人が良いし。
「ねえ、幸太ちゃん、やっぱり怒ってる?」
「んーん、もう怒ってないよ。っていうか怒る理由なんて無いよ」
「だって、恥ずかしいことさせて……」
「でも、本当は気持ちよかったもん。だから……、あ、でも、またされるのは困るよ。ちょっぴりどころかすごく恥ずかしいし」
「じゃあ何で私達に冷たいの?」
「だって、顔合わせにくいし、それにまともに顔見ると、また……アレ……もん」
またもウジウジしだす彼は語尾を濁す。だが、由香は不思議と苛立ちを覚えない。
「私達のこと……、んーん、私を見ると、どうなるの?」
それどころかこの状況を楽しむ気持ちが芽生えていた。
「由香ちゃん、エッチ、気持ち……あんなことされて……恥ずかしい」
片言の日本語で話す幸太の気持ちは手に取るようにわかる。そして、股間の辺りでテント設営に余念がないことも。
「それじゃわからないな。うじうじするの、幸太ちゃんの悪いクセだよ。きちんと言わないとオシオキしちゃうよ?」
幸太は椅子に座り、組んだ腕に顎を乗せる。由香が隣に座っても顔を上げようとする様子もないが、距離を開けようともしない。
「僕ね、精通したの夏休みが終わった頃なんだけどさ、その頃から三人の顔見るとおち○ちんが大きくなっちゃうんだ」
「それは、しょうがないんじゃない?」
「うん。でもね、その、皆のこと考えて僕、いけないことしちゃってるんだ」
「それって、一人でするやつ?」
幸太は無言で頷き、そのまま目元まで腕で隠す。