僕らの関係 プロローグ きっかけ-11
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放課後、由香は幸太と一緒に視聴覚室へ向かった。
廊下を歩く二人はどうしてもぎこちなく、由香が歩を止めると幸太も足を止め、隣を歩くように言うと、短い足を精一杯動かし早歩きになる。
つまり、全力で避けられている。
心に細い針を刺されたような痛みを覚える。
同時にめらめらと燃える上がるものを感じる。
彼女自身反省する気持ちはあるものの、あまりにうじうじした幸太の態度が腹立たしくあった。世間ではそれを逆切れというのだが、当事者となると冷静に自身を振り返ることが出来なくなるらしく、ついイジケタ幼馴染を睨んでしまう。
「由香ちゃん、どうしたの?」
――どうしたのなんてこっちが聞きたいわ。いいかげん機嫌直してよね!
由香は逸る気持ちを押さえ、視聴覚室の扉を乱暴に開いた。
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打ち合わせは思いのほか長く、終わる頃には既に日も沈んでいた。
しかも、提出書類のいくつかは今週中が期限とあり、打ち合わせのあとも、由香は提出書類とクラスメートに配るプリントの原稿の編集、校正作業に没頭し、幸太も必要物資の借り出しと準備作業の日程表の作成に追われていた。
「あーあ、こんなにタイヘンなんて思わなかったわ」
「そうだね……」
相変わらず淡白な態度の幸太は、由香との間に椅子一個挟んで作業に取り掛かっている。
彼女も何度か彼の隣に行ってみたものの、その距離を埋めることが出来ない。
そのちょっとした亀裂が思考回路で堂々巡りを繰り返し、周を重ねる度に大きくなり、ついには指先にまで達し、普段よりも濃い黒を描く。
――なんで幸太ちゃんは……!
ピシリという破裂音がした。みるとエンピツが折れていた。たまに抑えが聞かなくなる事のある彼女だが、せいぜい芯が折れる程度。なのに、今日は持つ部分がしっかりと折れていた。
「大丈夫、由香ちゃん」
幸太は心配そうに彼女に声をかける。
「大丈夫じゃないよ。さっきから幸太ちゃん酷いってば……」
しかし、彼の気弱な声を聞くと、溜めるに溜めた鬱憤が抑えられず、ついに爆発してしまう。
「そりゃ昨日は私が悪かったよ? でも、電話にも出てくれない、挨拶しても目を合わせてくれない、お弁当作ってきても一緒に食べてくれない。なんでそんなウジウジした陰湿な仕返しするの!」
激昂しながら、彼女は瞼が熱くなるのを感じていた。
――このまま気持ちを吐き出していたら、泣いてしまうかもしれない。……いいよね。もう。幸太ちゃんだって悪いんだし……。
「幸太ちゃんだって男の子なんだから、もっとしゃきっとしてよ、しゃきっと。そんなんじゃ何時までたっても私達に……」