投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

エンジェル・ダスト
【アクション その他小説】

エンジェル・ダストの最初へ エンジェル・ダスト 26 エンジェル・ダスト 28 エンジェル・ダストの最後へ

エンジェル・ダストC-1

「ずいぶん遠い処に来ちまったな…」

 砂地と松林が続く海岸線のそば。わずかに見える冬の海は黒く、砕ける波の白と絶妙なコントラストを表している。

 恭一が降りた無人駅。

 木とコンクリートから成る建物はあちこちが朽ち果て、石で造られたホームは長年の使用でゴツゴツとした窪みができ、昔から住人の足として重宝されていた事を連想させる。
 新幹線と列車を乗り継ぎ、最後に乗った路線が1両だけのディーゼル車両を、1日6往復しか運行していないという過疎線。

 恭一は誰も居ないホームでため息を吐いた。




 宮内が帰った後、恭一は窓際に立ってブラインド越しの風景に視線を移した。
 佐倉が大河内の事件から外れた状況を頭に思い描く。

(佐倉氏が異動した署は同じ県警内。だが、どうせ県警レベルの話じゃあるまい)

 ポケットからキャメルを取り出し火を点けた。よどむ紫煙の中で推測する。

(県警…警察は大河内を自殺で処理する必要があった。
 防衛省では公表出来ない何かを研究している。それを大河内は知ってしまった。だから殺害された。
 警察庁は防衛省からの要請で事の重大性を知り、事件を闇に葬ろうとした。が、それを佐倉氏にほじくり返されそうになった。そこで彼を辞職に追いやった。
 そう考えるのがスムーズだな)

 これが現実ならば実に悲しいことだ。佐倉は、刑事として当たり前のことをして警察に殺されたのだ。




 待合室にある年季の入ったベンチに腰掛け、コートの内ポケットからメモ用紙と地図を取り出した。
 メモには、佐倉と別れた妻と子供の現住所が記されていた。

(駅がここで、住所がこれだから…)

 恭一は地図を指でなぞり、メモの住所を見つけ出すと、

「歩いて30分って位置か。結構遠いな」

 ベンチを立ち、駅舎を後にした。冷たい潮風が強く吹きつける。コートの襟を立てて、駅前の通りから奥の道へと進んだ。

 さびれた家並みが続く風景。かつては賑わいをみせたのだろう。だが、今では面影を残すだけで、ところどころに空家も見受けられる。
 メモの住所に近づいた。恭一は、一軒々の表札を確認して目当ての家を探し回る。

「…福留…ここだな」

 ようやくたどり着いた。佐倉の妻は、離婚して実家に身を寄せていた。
 玄関にはチャイムらしきものは見当たらない。恭一はかなり立て付けの悪い扉を引いて開けた。

「こんにちは!〇〇から参りました、松嶋ですが!」

 しばしの沈黙の後、奥から40代くらいの女性が現れた。佐倉の元妻、幸子だ。


エンジェル・ダストの最初へ エンジェル・ダスト 26 エンジェル・ダスト 28 エンジェル・ダストの最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前