エンジェル・ダストC-8
(いい根性だ。おおかた習志野のレンジャーあたりだろう)
恭一は男から離れるとデスクの引き出しを開けた。
「さてと、何か使えそうなモノは…ああ、これなんか良いな」
中を物色して取り出したのは慶事用のハンカチとガムテープだった。
「さて、第2ラウンドと行こうか」
そう言うとイスごと男を床に倒した。
ガムテープで鼻の穴を塞ぎ、ハンカチを給湯室で濡らすと、
「じゃあ、頑張れよ」
ハンカチが男の口許を覆った。最初は何も起きない。1分を過ぎたあたりから男が身をよじりだした。
濡れたハンカチが口を覆い呼吸が出来ない。苦しさから男は跳ねるように悶え、首を左右に振るが布は貼り付いたように取れない。
恭一は腕時計で正確に2分を測るとハンカチを取った。
「ハアァッ!ハァッ、ハッ、ハッ…」
「どうだ?少しは喋る気になったか」
ハンカチを濡らしながら声を掛ける。正確に30秒を測り、再び男の口を覆った。
公安では、捕えた外国人スパイから迅速に正確な情報を引き出す必要がある。そのために考案されたのがこの拷問だ。
この方法の1番のメリットは、まったく血を流さない事だ。
何度も繰り返され、痛みとは違うダメージが精神力を奪っていく。
「…ちょ…ちょっと待ってくれ…」
男は激しい呼吸音を混じらせて、初めて口を利いた。
「なんだ?」
「しゃ、喋ったら…」
「ここから解放してやる。但し、少しでもおかしいところがあったら、今度こそ痛い目に遇わせるぞ」
「わ、分かった…」
恭一はソファに腰掛け、男への質問を始めた。
「所属は?」
「陸上自衛隊のある連隊だ…」
「連隊の名称は?」
男が口ごもる。
「まだ足りんらしいな」
恭一がハンカチを手に立ち上がろうとする。男の顔が恐怖に歪む。
「待て、言う!」
「さっきも言ったろう。オレの忍耐力を試すなよ」
男は諦めた表情で喋り出した。
「オレは……西部方面普通課連隊の所属だ」
恭一の顔が変わった。
「西部方面普通課連隊だ?いい加減なことを言うなよ。確か陸自の部隊は、方面隊の後に師団のナンバーが付くはずだ」
「違う…オレ達は方面直轄の部隊で、各レンジャーの選りすぐりで構成されてる…」
「つまり、イギリスのSAS、アメリカのデルタのような特殊部隊か?」
「……そうだ…」
これには、さすがの恭一も驚いた。日本にスペシャル・フォースがあるとは初耳だ。