エンジェル・ダストC-7
その時、
「おまえ達のターゲットはこっちだぞ!」
恭一の声。男達の目が一斉に背後を向いた。その瞬間、男達のひとりにモンキーレンチがヒットした。
殴られた男の悲鳴が地下駐車場に響く。残りの3人も突然の攻撃にひるんでしまった。
恭一は素早く男達に近づき、手で触れると、ひとりはバタリと倒れた。
「ひ、退くぞ!」
このままでは全員やられると思ったのか、2人の男は殴られた男の肩を抱えて地下駐車場から逃げ出した。
「な…なんだ?あいつら…仲間をひとり…置いてったぜ…」
「コイツが目を覚ましたら聞き出してみよう」
肩で息をする五島。対して恭一は息ひとつ切らしてしない。傍らに倒れた男の顔を覗き込む。
「ところで、さっきのは何だ?合気道か」
「ああ、あれか」
恭一がポケットから何かを取り出した。携帯の一回り大きいサイズで、先端に2つの電極が出ている。
「何だ、スタンガンかよ」
五島が悪態をつく。ガッカリと言った口調だ。
「こんな下っ端相手に奥の手は出せんよ。それに、おまえのファースト・アタックで勝負は決まってた」
「チッ!オレばかりに肉体労働やらせやがって」
「その分、割増にしてやるよ。それよりも…」
「そうだったな」
五島は、思い出したように散乱した工具から必要なモノを取ると、再びクルマの底へと潜り込んだ。
しばし、作業に勤む姿に目をやっていた恭一は、視線を倒れた男に向けた。
「オレはコイツを絞ってみるか…」
恭一は男の頭を軽く蹴った。
「ぐ……」
男の意識が戻った。目を開けると見覚えの無い暗い室内。
(何処だ?ここは……)
頭に痛みが走る。男は記憶の糸をたぐった。突然、ハンマーで殴られたような衝撃が走り、そのまま意識が遠のいた。
(そして気づいたらここか…)
「気がついたか?」
背後から声が聞こえた。男が振り返ろうとした時、身体が動かない事が分かった。イスに拘束されていた。
靴音が男に近づく。視界に映ったのは恭一だ。
「おまえには聞きたいことがある。喋ってくれれば痛い思いはしないで済む」
男は正面を向き口唇を固く噛んだ。
「おまえの所属は?」
「……」
「何故、オレを狙った?」
「……」
「おまえ、オレの忍耐力を試しているのか?」
恭一は白い歯を見せて笑った。獰猛な目を爛々と輝かせて。
皮手袋を着け、拘束された男に寄った。
「今度はオレがおまえを試してやる。どれほどガマン強いかな」
平手が男の頬に飛んだ。1発、2発と。20発を超え、顔は紫色に内出血して口許から血が流れる。
男は、それでも何も喋らない。