エンジェル・ダストC-6
「コイツはトランスフォーマーとコンバータを組み合わせた変換器だ。家庭用電源を倍の直流電圧に変えられる」
「コレで盗聴器を焼いちまうのか?」
「そういうこと。聴いてるヤツの耳が大丈夫かは保証しないがな」
五島は、ぶ厚いゴムシートをテーブルに敷いて皮手袋を着けた。
変換器から伸びる赤と黒それぞれ1本のコード。シートの上に置かれた盗聴器に黒いコードの先端が触れた。
「いくぞ」
赤いコードの先端が盗聴器に当たった。バチッという音と共に、火花が弾けた。
「まずは1個と…」
黒い煙がわずかに立ち、プラスチックの焼ける臭いが辺りに漂う。
すべての盗聴器を焼き切ると、変換器のスイッチをオフにした。
「次はクルマのトラップだな」
五島は、道具をバッグに戻すとオフィスを出ようとする。が、恭一は動こうとしない。
「どうした?行かないのか」
「先に行っててくれ。すぐに来るから」
五島が不審な顔を浮かべた。
「今の件で“お客さん”が来るんじゃないかと思ってな」
口の端を上げて、笑みを作る恭一の目が異様に輝いた。
ルノー4を照らす作業用ライト。五島はクルマの底に潜り込んだ。
(なるほどねえ…)
ライトに照らし出された2ミリほどのコード。明らかにクルマには必要ないモノだ。
コードを追っていくと、アクセル部分から車内へ繋がっている。
「キーを差し込んでスタータ・スイッチを入れた途端に爆発するタイプか…」
チェックし終えた五島は、工具を取ろうとクルマの底から這い出た。すると、黒づくめの男4人が近寄って来た。
「なんだ…おまえら」
男達は、何も言わずに五島との距離を詰めて来る。
「オレに何の用だ!」
男達との距離が2メートルほどになった。五島は工具箱からモンキーレンチを取り出した。