エンジェル・ダストC-4
(やはり。宮内は今もマークされてるのか)
恭一は考えた。奴らがここを見張るというは、自分が幸子に会いに行った事は勿論、小包の中身が何かを知っているに違いないと。
(ヘタすりゃ盗聴、盗撮されてるかもしれんな)
恭一は先ほどのメモだけを抜き取ると、手帳とブリーフ・ケースを梱包し直した。
「ちょうどいい時刻だ」
左手に小包を抱え持ち、オフィスを後にした恭一は、地下駐車場に停めてある自分のクルマに乗り込もうとした。
ドアノブに掛ろうとする手を離す。
(オレが奴らなら、トラップを仕掛けるな)
薄暗い駐車場から1階に上がり、ビルの表へと出ると徒歩で近くの大通りに向かった。
距離にして200メートルあまり。ゆっくりとした足取りで進んで行くが、追って来る者はいないようだ。
通りに出ると、すぐに流しのタクシーに出くわした。
恭一はタクシーを止めて乗り込むと、
「このまま真っ直ぐ進んでくれ。後で行き先は伝えるから」
無茶な依頼に運転手は少し困惑した顔をしたが、すぐに“分かりました”とだけ告げるとタクシーを発進させた。
「何とか…間に合ったな」
10室しかない小さなアパート。むき出しの階段には申し訳程度の雨避けしかない。その階段を恭一は登っていた。
2階のある部屋の前に立つと、ドアがガチャリと開いた。
「待ってたぞ」
現れたのはスキンヘッドの男、五島英文だった。
かつてのパートナー。しかし、CIAから情報料として1億円を奪って以来、恭一同様、産業スパイからは足を洗っていた。
「1年ぶりだな…」
感慨深げな恭一に対し、五島はあまり良い顔をしない。
「まあ、中に入れよ」
玄関を1歩入った途端、恭一は驚いた。以前はゴミ溜めのような臭いがしていたのが、柑橘系の爽やかな香りに満ちている。
部屋もそうだった。キレイに整理整頓され、フローリングも磨きが掛かっている。
(そういう事か…)
テーブルを前に座る五島の落ち着かない様子が、恭一には微笑ましく映った。
「…で?仕事の話って」
唐突に切り出したのは五島の方だった。
「ところで、今も“掃除”はやってるのか?」
「ああ、あれが1番金になるからな」
「そうか。だったら、ウチのオフィスをやってくれないか?とりあえず1ヶ月間、毎日」
「毎日だって!」
「そう、毎日。それと、地下にあるオレのクルマに仕掛けられたトラップの解除も」
これにはさすがの五島も呆れ返った。