密心〜ぼたんあめ〜-1
「甘味の君は…何ぞ酷いのかぇ?」
「ぇ……?」
不思議に神妙な顔をなされた牡丹姐さんにそう訊かれ、私は戸惑うしかなかった
雑巾を硬く絞りきって水気を飛ばし、棚の縁を拭いながら笑い飛ばした
「牡丹姐さんの杞憂にございんす。何もありんせん。相も変わらず旦那さまは優しゅうございんすから」
それでも何か言いかけた牡丹姐さんに湯屋を勧め座敷をお暇した
はぁ……とため息を人知れず吐く
今度までにと頂いた菓子は溢れそうなほど大きい飴玉だった
眩く虹色に光る色とりどりの飴玉は、袋から溢れそうなほどあった
……あぁ、だからかもしれない
牡丹姐さんが心配なさったのは
飴玉は長く長く持とう
それだけ蔵ノ介さまとの次は遠いということだ
だからきっと飽きられたのではないかとご心配をかけてしまったのだ
「あぁ…丁度よかったでありんすぇ、みそか。女将がお呼びでありんしたよ」
女将に呼ばれるのは珍しいことじゃない
細やかな用を言い使うのは下っぱのみそっかすであったころからの習いであったから
用心せずとも私が逃げなかったのもあろうが
遊女に使いなど頼めば逃げ出してしまう
花街生まれの牡丹姐さんも、外から花街に生きざるを得なかった金魚姐さんも……一度は逃げ出そうと、思ったりも、…したらしい
……そういえば私はなぜか考えなかった
なぜだろう……そう思いながら座敷の前に手をつこうと屈んだ
「客……でありんすか?」
「みそかもそろそろよい頃合いよと思ってねぇ。どうかい?手折られた旦那以外を知りんさいな。蜜花世でも初の客になるがの、よいかぇ?」
「…………はい」
その方がよいのだ
きっと離れれば……違う方を知れば離れられよう
この醜く卑しい恋心から
「初回でありんす。みそかといいんす」
「おぅおぅ……可愛いのぉ、初でどこか慣れぬ様がよいよい」
父ほども離れた好好爺然とした旦那は、名を三好屋さまと申された
名は仰れないそうなので三好屋さまとお呼びした