カルマの坂-1
【ある少年がいた。だが、両親が死んでいた。もう、何年も前に・・・。
いつも、青空が広がっているこの場所だが、少年の心にはいつも闇が広がっている。】
「いらっしゃい、いらっしゃい。今日も安いよ!!
今日は今つくったばかりのパンがお勧めだよ!!買った!!買った!!」
表では、この店の主人が色々な物を売っている。その周りには、お客がたかっていた。
少年はお客の隙間を通り抜けて、パンを取る。そして、すぐに逃げる。風の様に。
「こらー!!誰だ!!また、お前か!!」
店の主人は少年を追い掛ける。だが、醜く太った店の主人には追いつけるはずがない。
「へへっ!追いついてみろよ。べー!!」
少年は空腹を感じていた。早くパンを食べたかった。空腹を満たす為に・・・。
だが、街の外れに差し掛かった時、心は美しい少女に奪われ、足を止めた。
美しい少女は、オークションに掛けられていた。
元気が無い様にも思う。ずっと下を向いているのだから・・・
ときどき涙を流す。何かあったのだろうか?
「さてさて、次の商品は!!この少女だっ!!1万からスタート!」
少女の傍にいる商人と少女を中心に別の商人達が囲んでいる。
「5万っ!!」
「10万っ!!」
あちらこちらから、商人達の声が聞こえてくる。どんどん値が上がっていく。
「はいっ!そちらの方!1000万で落札です!!
全ての商品が売り終えましたら、お渡しします。少々お待ち下さい。」
誰もいないところに少女は寄せられる。あいかわらず下を向いたままだ。
少年は少女の手を握り、突然走り出す。少女はビックリして、足も歩いていた。
だが、少年の心を知ったのか徐々に走りだした。
【少女に出会ったことで、少年の心には徐々に光が射し出した。】
少年と少女はカルマの坂と呼ばれる坂にいる。
カルマの坂は街外れを越えた近くにある坂だ。
「……どうして、私を助けたの?」
「え、えっと…。べ、別に、理由なんてないよ。」
少年は髪を掻いた。感情が昂ぶると髪を掻くクセがあるのだ。
本当は、綺麗だったから助けたと言いたかった。
「……お願い聞いてくれる?」
絞り出すような声で言う。
「いいよ。何でも言って!」
「……私を…殺して…。」
「ええっ!どうして?」
「…一生このままで暮らすより死んだ方がましなの。
…天国でも地獄でも、ここよりマシならどこにでも私は行くよ。」
少年は驚いている。
「…分かったよ。ちょっと待っててくれ。剣を盗んでくるから…。」
夕暮れになるまで待って、金持ちの家から剣を盗んだ。
剣を引き摺る姿は、風と呼ぶには悲し過ぎて、もはや風と呼べない。
(人は皆平等などと言ったペテン師がいたけど、その言葉は嘘に違いない。じゃあ、なんであの子は死にたいなんて言い出すのかな。)
カルマの坂を登り、少女の所へ向かう。そして、少女を刺す。少年は涙を流しながら…。
「あり・・が・・・と・・・・う」
剣から蛇の様に、血が流れる。少年の手にも、血が絡み付く。
少女は倒れた。意識も無く、かわいそうに思えた。
少年は、少女の目を閉じさせ、くちづけをする。
最初で最後のくちづけは、冷たく、悲しいの味がした。
それから、やっと少年は空腹を思い出したような気がした。
【少年は少女を殺した事によって、心は再び闇に染まってしまった。だが、必ずまた光が射すだろう。】
―――ある時代、ある場所、乱れた世の片隅の物語―――