『あたしのビョーキ』-1
「恵、りっちゃん、できたよ」
丸顔の幼馴染が運んできたのは、トマトをふんだんに乗せたピザ。チーズをちょっぴり焦がした香ばしさが部屋いっぱいに広がる。
チーズの下には準備に一時間もかけたトマトソースがしっかり塗られており、表面にもエビや赤ピーマン、唐辛子、赤カブ、にんじんなど、とにかく赤いものを乗っけられている。
「わー、コータ、すごーい」
今日の主役である倉沢里奈が手を叩いて喜ぶと、可愛らしいリボンで留められているツインテールがふわふわ揺れる。生意気そうな猫目とちょっぴり低めの鼻が愛嬌のある里奈は、いつもうそ臭いほど女の子してる。
「ちょっと里奈、まだみんなに取り分けてないのに……」
しっかり者の相沢由香がパン切りナイフ片手に切り分けているにもかかわらず、里奈はハーフサイズを皿にとって小さなお口をいっぱいに広げて頬張り始めていた。
「んもう、里奈ったら」
「いいよ、由香ちゃん。今日はりっちゃんのお祝いなんでしょ？」
メインシェフである桐嶋幸太はエプロンを脱ぎながら座布団に座る。男のクセに料理の上手いこいつは何かと便利だ。
「それじゃあ里奈のごにょごにょを祝って、かんぱーい」
あたしはジュース片手に高らかと幼馴染のおめでたい日を祝ってやる。
「で、なんのお祝いなの？」
「コウは知らなくていい」
「えへへ、コータには内緒」
「幸太ちゃんには無いことだし……」
にこやかなあたし達に対し、終始困惑気味のコウだけど、これは女子限定のお祝い
事だ。男にも有るだろうけど、それを祝うというのは聞いたことが無い。
「……ん、うん、美味いな、これ！」
切り分けられたピザを頬張ると、あたしは思わず舌鼓を打ってしまう。
酸味の利いたトマトに濃厚なチーズの味。エビのぷりぷりした歯ごたえもさることながら、赤ピーマンは苦味もなく歯応えと甘みが際立っており、口の中でさまざまな食感と味が踊っている。
「ユカリン、コータ、ありがとね。里奈、すっごい嬉しいよ」
既に半分の半分を食べ終わった里奈は、頬にトマトソースを付けながら微笑む。
「おいおい、ホッペについてるぞ？」
あたしは彼女の頬についたエビの尻尾を摘むと、そのまま自分の口に放り込む。
「あ、ちょっと恵……」
由香は微妙な表情で布巾を渡してくれるけど、あたしには必要ない。
「ん？ 何？」
由香の戸惑いの理由も分かる。女同士とはいえ、頬に付いたものを食べるなんて……。
きっとそう思ったんじゃないかな。
けど、あたしは気にならない。
例えば魅力的な異性がいたとするよ。その人の頬にごはん粒が付いていたら、それはチャンスではなかろうか？ 間接キスの。テレビやドラマ、漫画や小説でもそういう場面ってときめくもんじゃね？
あたしだってそういう気持ちはあるわけで、里奈も顔だけ見れば可愛い子だし、ちょっとばっかりイタズラ心も沸くってもんさね。
ん？ あたし今何かおかしなこと言ったかな？ いいじゃん、別に。女が女を好きでもさ……。