憂と聖と過去と未来 1-8
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昼休みがあと5分ほどで終わる頃、教室に戻ったあたしは真っ先に佐山さんの席へ向かった。
教科書に目を通している佐山さんの横顔は、たぶんに漏れず優等生のような雰囲気を醸し出していて、またその容姿を綺麗だと思った。
「…柊さん」
あたしに気付いた佐山さんは、そっと教科書を机に置いてじっとあたしの顔を見ている。
よくいう期待と不安が入り混じったような顔だ。
「聖、いいって」
「ほんと!?」
あたしがそう言うと、佐山さんはとても驚いて口元を両手で抑えた。
「はい、これ聖の携帯の番号とアドレス」
あたしはそう言ってメモ紙を手渡した。
「柊さんありがとう!」
「いえいえ」
「あの…よかったら柊さんの携帯もおしえてくれないかな…?相談したいから」
なんとなくそう言われる予感はしていた。
聖のことを一番知っているのはあたしだから。
こうなった以上、最初からあたしは損な役回りを引き受け、引き立て役として奔走するのか。
苦笑いしてしまいそうになるのをぐっと堪える。
勿論、あたしはいやだった。
引き立て役を受けることだけでなく、まだ心のどこかで嫌悪感と後悔の気持ちが揺らいでいるのは自覚している。
「うん!」
でも、あたしは笑ってそれを承諾した。
先ほどの聖とのやりとりで、あたしと聖は大丈夫だと信じていたから。
それに何より、自分が決めたことだ。
悪くいえば、これは自分がまいた種なのだ。
自分が聖を縛っていることに気付き、自分の気持ちに正直になれず、最初に佐山さんの頼みを受けたあたしの責任。
今のあたしは、既に開き直っていた気がする。