憂と聖と過去と未来 1-7
「…あのさ」
「……ああ」
「聖のこと、好きな人がいるんだ」
「……」
「うちのクラスの佐山さんって人なんだけど」
「……」
「なんかいつの間にか仲介役なんて引き受けちゃってさ…」
「…だから悩んでたんだな」
「…うん」
いざ打ち明けると、とてつもなく申し訳ない気分になってくる。
少しの無言の後、聖は切り出した。
「…憂」
「…なに?」
「お前は…それでいいのか?」
「え…」
「……」
聖は依然、まっすぐにあたしを見つめたままだ。
「い…いいよ、だってあたしは…聖と付き合ってるわけじゃないのに聖を独り占めにして…罪悪感を感じてて…」
「憂…それは違う」
「…違わないよ。聖って自分が思ってる以上に女子に人気なんだから」
「……」
聖は何かをずっと考えているらしく、何も言わずにじっと前を見ている。
10分ほど経過したころ、ようやく聖がしゃべりだした。
「…憂」
「なに?」
「今の俺達の関係が崩れてもいいのか?」
その言葉がなんだか胸に刺さった。
やっぱり聖も同じことを考えていたんだ。
「大丈夫!あたしと聖の関係はもう簡単に崩れないよ。というか、あたしが絶対に崩させない!」
あたしは胸を張って言った。
聖は一瞬、眉をきゅっとひそめると、めずらしく声を出して笑った。
「はは、頼もしいな」
「聖、今さらだけどごめんね。こんなことになって」
あたしがそう言うと、聖はあたしから視線を全く外すことなく、いつものぶっきらぼうだけど、それでいて暖かく優しい声で言った。
「……これでお前が助かるんなら、俺はそれでいい」
「…聖」
優しく微笑んだ聖を見て、聖の言葉を聞いて、ぶわっと涙が目に溜まった。
あたしはこのとき…
聖に好きって言ってればよかったんだ。
あたしは、聖にこんなに愛されていたのに。