丸をつける-2
『どこがだ?』
投げかけた言葉に予想していた言葉は返ってこなかった。
てっきりふざけて返すか流すかすると……してくれると思っていた。
ただ柴咲は…あおいは……驚いた顔をしたまま瞳に涙をためて、こぼすまいと目をみはっていた。
それすらも無意識で、ただあおいの時間だけが止まったように。
「し…ば、咲…」
気持ちをこぼすまいとしているように見えて、俺はやっと真剣に好かれているんだと自覚していた。
あれ以来、柴咲は徹底的に関わりを絶とうとしているかに感じた。
元々もう担任でもない……接点は消してゆけばないのだ。
それでも、視線を、感じた
いつも柴咲のいた場所、空虚に空いた先に、視線を感じた。
柴咲だ
わかる瞬間、今すぐ手をとりたいだしたいほど柴咲を渇望していた。
見つめ返せば好意が雫になって滴るんじゃないかと思うほどの瞳にみつめられていた
今すぐアイツの手をとってしまいたかった。
なぜいなくなった瞬間欲しくなるのだろう
なぜいなくなった瞬間欲しかったことに見ないフリをできなくなるんだろう
………今さらながらにアイツの好きに応えてやりたかった
そうしたかった自分をやっと認めた瞬間には、アイツは手からすり抜けていった
それからの日々は色彩をなくしたようにさみしかった
卒業式にみるアイツは清らかな制服姿で、こんな気持ちを向けるには遠すぎる相手だった。
夢だったんだ。
ただからかわれて戯れて一時夢中になっただけだ。
諦めろ…
そう『生徒』の卒業を祝えもせず、諦めようとしていた矢先だった。
『がんばりますから』
『いつか絶対相応しくなります。先生に相応しくなれるようにがんばります。だから、だから――また、会えたとき、先生がそう思ってくれたら、……そのときは私を隣に立たせてください』
嘘だろ…と思った
何言ってんだコイツ…
……めちゃくちゃ不意討ちにノックダウンだよ
まいった…