婚外恋愛-1
「魂が満たされる」
そう克明は云った。
私の笑顔に安心感と幸福感を見出すのだそうだ。
その目で見つめられると、吸い込まれそうでドキドキすると。
そういえば、目ぢからについては正弘からも同じ言葉を聞いた。
女を口説く定型文なのだろうか、しかし目元が自分のチャームポイントであることは私自身も自覚している。
八つ、いや彼の誕生日がくるまでは九つ年下の克明は今年ちょうど40になる。
40といえば、世間ではもう立派に「おじさん」の部類なのだろうか。
私は決して自分を「おばさん」だとも認識できていない図々しい女だけど克明ですら、私から見れは青年のようである。
確かに、年齢だけでは言い切れない雰囲気というものはある。
克明にはさらに彼より八つほど年下だという妻がいるが、二人の間に子供がいないせいか、生活感をあまり感じない。
多くの結婚外恋愛志望者と違って、彼は妻の不満や愚痴を一切口にしない。
年下というだけでなく、性格的にも幼い妻を、妻というより妹というよりわがまま娘として感じるらしい。そしてそのようなわがまま娘である危険物を扱えるのは
自分しかいない。そんな自負を妻への愛と置き換えているようだ。
わがまま妻もわがままなだけでなく、夫を尊敬し信頼してよく尽くしているらしい。
克明は自分たち夫婦は仲良しだよとおくびもなく私に云う。
しかし そんな彼が私を求めている。
安心感、甘えられる存在で魂の繋がりだそうだ。
「大好きだよ 愛してる」
躊躇なくそういう言葉がいえることにも 私はジェネレーション・ギャップを感じなくもない。
世代は関係ないかもしれない。だけど私の生活圏では耳慣れない言葉であることには違いない。
「恵は?」彼は私からも同じような言葉を聞きたがる。
私は躊躇い戸惑い混乱する。その間の沈黙が彼を不安にさせる。
「聞かないで」迷った挙句の言葉にしては能がないのも承知で口にしてしまう。
「いいよ、云わなくて」
彼は聞き訳がいい。
わがままお子ちゃま妻に慣らされているのもあるだろうし、もともと受け身なタイプだ。
奉仕の精神というのだろうか、何かをしてあげたい、喜ばせてあげたい。
その気持ちが積極的に行動に出るというよりも、相手の望みを伺うタイプであり求められると喜び勇んで奉仕するといった忠犬タイプとでもいうのだろうか。
「克明も私もタイプが似てるわ。Mなのよ」と私は言う。
必要とされることで自分も満たされる。
だけど
相手の必要を満たすことだけに全てを費やせるわけではない。
やはり、見返りを求め褒美を待ち望む。
克明は妻に必要とされていることに満足し、しかし褒美を私に求める。
もちろん、私にたいしても求めるだけではなく与えたがる、必要とされたがる。
「・・・・してあげる」と彼はよく言う。
「させてあげる」と私は言い直す。そういう揚げ足とりを私はよくする。
元来Mの私は、Mゆえのサービス精神により克明に対してはSとなる。
彼が私を切なく見つめてため息をつく。半笑いのような半泣きのような微妙な表情が
言葉にならない気持ちをストレートに私のハートをノックする。
私からの「命令」を目をウルウルさせて尾を振って瞬時も逃さないという集中力で待ち構える。
甘えた視線を見せるのもまた「命令」を望んでのことだ。
そんな彼に私は欲情する。今にも泣き出しそうな媚びた目に。
私の純粋に求めるSさまはいずこに・・・。