憂と聖と過去と未来 prologue-3
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一緒に回る、といっても、何かをするわけでも会話を交わすというわけでもない。
ただ無言で歩き回っているだけだ。
言わなくてはいけない。
あのときのことを。
謝らなきゃいけない。
あのときのことを。
あたしの頭の中ではそればかりがぐるぐると廻っていた。
ちらりと彼の横顔を覗き込む。
そこでふと思う。
彼はあの事件が起こる前のように、無愛想だけど柔らかな顔をしていた。
あの事件を終えて退院してきた彼は、本当に目つきも鋭く、他を寄せ付けない威圧感があった。
彼は、過去を清算できたのだろうか。
「……憂?」
彼があたしの名を呼んだ。
そして気付く。
あたしが彼の横顔をずっと見つめていたことを。
「あ、ごめん」
「……憂」
「なに?」
「お前は…あのときのこと」
彼がそう言った瞬間、胸がずきりと痛んだ。
あのときの記憶がどっと頭の中に流れ込んでくる。
「ごめん…聖」
あたしはそれだけ言って、人混みの中へと駆け込んだ。
振り返ることはできなかった。
彼は追ってきているだろうか。
せっかく彼がくれたチャンス。
その先には、昔のような楽しい日々が待っていたのかもしれない。
自意識過剰だとわかっている。
傷ついたのは彼なのに。傷を負わせたのはあたしなのに。
でもあたしは、自分自信の自責の苦しみから抜け出せなかった。
いや、抜け出してはいけないのだ。
例え彼が許してくれても。
呪縛が解き放たれることはない。
すべては二年前、高校三年の春に遡る。