『久遠の絆~現代〜平安編~』-1
〜始まりはいつもの悪夢から〜
寒い……。
震える体。脅える心。
風に凝る甘い血の香り。冷たい無機質なコンクリートに囲まれた路地裏。俺は、何故こんな場所にいるのだろうか……?
誰かがいる……。
女の声がビルの隙間に木霊し、血生臭い香りが漂う。
女は俺に向かって、仰々しく『何か』を差し出す。
それは驚きと怨みの表情を浮かべた人首だった。
『うわああッ!』
俺は喉を引きつらせて悲鳴を上げ、飛び起きた。
苦悶の後、ようやく現実に引き戻される。
この異常な目覚め方は、子供の頃から度々俺に訪れる、よくある『朝の儀式』なのだ……。
〜転校生・高原万葉〜
転校生の予想以上の美しさに、男子どもからは歓声が上がる。
『初めまして、高原万葉です。よろしく、お願いします』
歓声を意に介した様子も無く、型通りの挨拶を終えて自分の席へと向かう転校生。
が、ふと、
俺のすぐ脇を通った所で、彼女の足が止まる。
顔を上げると、そこには俺を見つめる彼女の視線があった。
『鷹久(たかひさ)…やっと会えたわ。あなたは……必ず私が殺してみせるから』
一瞬、彼女の言葉が理解出来なかった。
しかし、そんな言葉をかけた俺に『校内を案内して欲しい』と言う転校生。
彼女の言葉の真意を確かめたかった俺に、その誘いを断れるはずもなかった。
しかし、結局、
彼女の真意を聞き出すことは出来なかった。
『万葉(まよう)よ、私のことはそう呼んで……』
別れ際にそう呟いて、彼女は去って行く。
それに応えるように、俺の唇から彼女の名が漏れる。
気が付けばそれまでの心のざわめきは、狂おしいまでの哀切の想いに姿を変えていた……。
〜非日常の現出〜
授業中、突然倒れ込んだ沙夜(さや)先生。
その時俺には、いや、俺だけには、先生の周りを徘徊する怪物が見えた。俺は先生を助ける為、奴に駆け寄ろうと試みるが…
『待って、そいつに近づいてはダメ!』
万葉がそう叫んだ。
「そいつ」!?
あの怪物が、狂夢のような非日常的な世界が、彼女にも見えているのか?
万葉に対してもっていた不信感が、俺の中で徐々に親近感へと変わっていく…。
ひとしきり暴れた後、姿を消した怪物。
尋常ではない苦悶の表情を見せる沙夜先生。
さらに、異常な言動を見せる芦屋幹久(あしやみきひさ)の出現と立て続けの非日常の現出に、俺の困惑は度合いを増していく。
『オカルト神秘学研究会』の部長・天野先輩によって何とか事態は収拾されたものの、彼女もまた、俺に謎の言葉を残して去って行った。
『全身全霊で悪夢に立ち向かわなければならない時が来るわよ』
突然の、非日常の現出。『悪夢』だけに留まらず、非日常的な『何か』が、俺を中心に動き始めている……