桜が咲く頃-2
俺はかんざしをぎゅっと握りしめる。
キツネに化かされたのでもいい
俺の思い込みでもいい
夢でもいい
もう一度会いたい…
俺はかんざしを身に付けた鈴を思い描く。
鈴に会いたい…
俺は再び捜し出す──
その後も、何も掴めない日々が続いた…
そんな日々に、そんな自分に、俺は苛立ち
心が、折れそうになっていた……
俺は橋の欄干に手をつき、空を見上げる。
雲一つない青空で、暖かい太陽が眩しくて
俺は、涙が溢れそうだった…
俺は目をぎゅっと瞑り、一度深呼吸をしてから目を開け、再び歩き始める――
俺は、息が出来なかった…
橋の向こうから歩いて来る人物から、目が離せなかった…
それは、年頃の子がよく着る着物を着て、流行りの髪型に結っている、どこにでもいる、普通の…
普通の、女の子だった…
でも違う。
俺にとっては、普通なんかじゃない、特別な…
大切な人…
『…りん……鈴!!』
俺がその人物の名前を呼ぶと、女の子は驚いたように顔を上げる。
俺と目があうと、女の子の目は大きく見開かれていく。
俺は彼女の姿が涙で霞んできた…
もう彼女以外、何も見えない…
『鈴…』
俺が彼女に近付こうとすると、彼女はきびすを返し、逃げ出した。
『鈴!待てよ、鈴!!』
彼女は細い路地に入り、右へ左へと逃げて行く…
逃がすもんか!
やっと見つけたんだ!
もう二度と──
俺達は細い路地を抜け、川が流れる路地裏に出た。
そこは川に沿って桜の木が植えられている。
俺は彼女の腕を掴み、背を桜の木に押しつける。
『鈴、鈴だろう?』
彼女は袖で顔を隠している。
『鈴、顔見せてくれないか…?』
彼女の体がこわばるのがわかった。