プロポーズ-1
和也がそのことに気付いたのは半年前のことだった。
和也は憧れの母が卒業した県内一の名門高校を目指していた。公立中学で陸上部のキャプテンを務めており進学塾に通うことができないハンデを、母親の奈々子が家庭教師として内申点を獲得する生活指導から受験対策まで、つきっきりで和也を助けていた。
和也は幼い頃に父を亡くしていた。幸いなことに父の残した遺産で生活に困ることはなかったが、奈々子は和也に寂しさを感じさせないように、父のいないハンデを感じさせないように、常に明るく、父の分まで愛情を注ごうとしていた。そして和也も期待に答えて奈々子を喜ばせたいと常に思っていた。
そして和也は志望校に合格した。掲示板で自分の受験番号を確認すると、和也は一目散に奈々子の元へ向かった。玄関で出迎えた奈々子は和也の笑顔で合格を知ると、和也をおもいっきり抱きしめたのだ。
合格祝いの夜だった。奈々子が予約したお気に入りのレストランへ二人で出かけた。
その日の奈々子は見違えるように綺麗だった。栗色の髪を降ろし、赤いルージュに大きく印象的な瞳が際立っていた。ドレスの胸元の真っ白な肌がまぶしいほどだった。
奈々子は和也と向かい合って座ると昔話を楽しそうに始めた。このレストランで父とデートしたこと。その頃のお気に入りのメニューが無くなってしまったこと。
だけど初めて連れてきてくれたのは別の彼氏だったと、悪戯っ子のような顔をして話した。
奈々子はレストランで2本のワインを空けていた。よほど嬉しかったのか奈々子は閉店まで上機嫌で話し続けた。和也もそんな奈々子の話を聞くのが楽しかった。
タクシーに乗ると和也の肩に頭を乗せ、寝息を立てて眠ってしまった。タクシーを降りると奈々子は歩けないほど酔っていた。和也が背負い、必死の思いで階段を上り、奈々子をベッドルームへ運んだ。奈々子をベッドに乗せると、寝ぼけた奈々子は和也を抱きしめ唇を合わせてきた。和也は驚き振り払おうとしたが、気が付くと奈々子は既に寝息を立てていた。和也は胸の高鳴りを抑えて、奈々子に毛布を掛けると、そっと奈々子の寝室を出ていった。
和也は自分のベッドに飛び込むと、奈々子の唇の感触を思い出した。和也は奈々子を思い毎日のようにオナニーをしていた。食事をしているときから、奈々子の唇が気になっていた。赤いルージュをまとう唇は、艶やかでそして和也の妄想を膨らませるに十分だった。その奈々子の唇が自分の唇に重なったのだ。和也は激しく自分のものをしごいていた。
その時だった。奈々子の声が聞こえたような気がした。耳を澄ますと自分の名前を呼んでいるように聞こえた。
和也は奈々子が心配になり、パジャマを穿くと奈々子の寝室に向かった。ドアを開けようとしたその時だった。
「あうううう!」
ドア越しに艶かしい声が響いてきた。
「やあん。かずやあ・・・
感じちゃう!」
まさか!和也は信じられない思いで立ち止まった。
「あはああ!」
「んんん。気持ちいい!」
奈々子がオナニーしているとしか思えなかった。
酔った奈々子は、自分の声が部屋の外に漏れるのも気にせずオナニーに耽っているのだ。あの母が息子の名を呼びオナニーするなど考えられなかった。
次の瞬間だった。