あごがすきなんです。-1
小学校低学年のときから、女の子達は既に恋の話に夢中だった
「好きな人いる?」
「誰が好き?」
「うちのクラスだったら」
周りの子はいつもこんな話をしていた
私はそういう話に興味がないわけじゃなかったけど、いつもあまり面白くなくて自分からは参加しなかった
それは、誰とも話が合わなかったから
…なんでなんだろう
何で私だけ趣味が少しずれているんだろう
年齢を重ねていき…少しずつ理由が分かった
それは…
…私が、「あごフェチ」だから
顔なんて正直どうでもいい
人の顎のラインをついつい見てしまう
少し上を向いたときなんてたまらなくドキドキして、つい見とれてしまう
でもこんなことは自分でも恥ずかしいし、なんだか変だって分かっているから、誰にも言わなかった
巷によくいる「手フェチ」の人はきっとこんな風に異常なくらいドキドキしたりしないと思うから
…どうにかならないかなぁ
そんな自分にうんざりしながらも、ついつい「理想のライン」を持つ人を探してしまう
でも…自分の好みにぴったり合う人はなかなかいなかった
無意識のうちにあごを見て査定してしまう自分にいつも呆れながらも、その癖は抜けなかった
むしろ、最近なんだか悪化しているような気すらした
四月に大学に入学した時、もうそろそろこんなおかしな習慣からは卒業しなきゃ!と誓ったのだが…
…私の決心は、ある人との出会いであっさりと崩れることになってしまった…
***
「小林さーん!」
背後から私を呼ぶ大きな声に振り返ると、同じ新入生の高松みゆきが手を振りながら走ってくるところだった
社交的なみゆきのほうから声を掛けてきて、私たちはすぐに仲良くなった
「高松さんどうしたの?」
「小林さん、これからサークル見学行くんでしょ?私も一緒に行こうと思って。良い?」
みゆきが少し上目遣いに私を見る
そんな仕草は女の子らしくてとても可愛かった