あごがすきなんです。-10
「違うの?」
「あ、あの…そんな、感じです」
もうダメだ、完全に終ってしまった
そう思ったとき、先輩が安心したように息を吐いた
「なんだ、そんな事か…」
「そんなこと、なんですか?」
私は驚いて先輩を見る
「そんなことだよ、だってそんなの俺の方が全然…」
そこまで言って、先輩はばつが悪そうに口を閉じた
先輩の、ほうが…?
「先輩も…なにかあるんですか?」
「あ、いやー…なんでも、ないよ」
私は、あからさまに誤魔化す先輩に詰め寄る
「言ってください、先輩…私、先輩がどんな趣味でも大丈夫です」
「………」
***
狭い台所に、水を流す音が響く
「こんなことなら言って下されば良かったのに」
「こんなことって…」
あれから話を聞いた私は、一人暮らしの先輩の家で洗い物をしていた
私の格好は、全裸に白いレースの付いたエプロンを一枚着ただけの状態…
…所謂、裸エプロン
「小林さん、よく普通にしてくれるよね」
大きなお皿を泡だらけにしている私を、先輩が後ろから眺めている
後ろから見た私は背中もお尻も丸見えなわけで…普通にできるわけがない
恥ずかしいけど…なんだか身体が熱くなってきちゃう
「小林さんなんて…こんなことしてるのに名字で呼ぶなんて、変です」
私は身体の火照りをごまかしながら言う
「真紀ちゃん?」
「あ、はい…」
「君、価値観変だよ
真紀ちゃんの顎フェチなんかより、俺の方が気持ち悪くない?」
「そんなことないです、私、これくらい平気ですよ」
厳密に言うと、なんだか平気ではないんだけれど…
「でも、そうですね…やっぱり私ちょっと変なのかもしれませ……きゃっ!」
「本当ーに平気?」
先輩が後ろから抱き付いてくる