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卒業
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卒業-1

 黄昏刻。
 茜色の光が放課後の教室に差し込み、机や椅子の影が伸びる。
 赤い逆光の中、机に座る二人の少年。
 芳流閣学園三年生、波瀾光と具志堅洋孝である。
 膝の上に8ミリカメラを抱える洋孝。
 二人は映画研究会に所属しているのだ。
 映研と言っても部員三名の弱小倶楽部で、それも今年彼らが卒業すれば倶楽部は無くなる。
「……何か、覇気が出ないよなぁ」
 天井を仰いで溜め息を吐く光。
「まあ、な。受験も終わったし、一応、全員進路は決まったからな」
「皆、バラバラだけどな。もう、このメンバーで映画撮る事もないんだろうな」
「仕方ないよ」
 大事そうにカメラを撫でる洋孝。
「もっと色んな映画撮りたかったな」
「お前の無茶に付き合わされるのはもう懲りたよ。許可も取らずにロケやって、どんだけ逃げ回ったんだよ」
「だけど」光は振り返り、小さく笑った。「だけど、面白かっただろ?」
 言われて苦笑いをこぼす洋孝。
「まあな。だけど自衛隊基地に入るのだけはもう二度と御免だ」
「ちっ、いつまでもしつこいな。あれは大スペクタルを撮る為には必要だったんだ」
「何が大スペクタルだよ。無茶苦茶チープな怪獣映画じゃないか。怪獣は段ボールと新聞だし、戦車に仕込んだ爆竹はどう編集しても映ってるし」
「解ってないな、洋孝は。そのチープさが魅力なんじゃないか」
「解るかよ。変な映画ばかり撮るから、いつも百瀬が怒っていたじゃないか」
「変って何だよ。恋愛物やらシェークスピアやらやっただろ」
「いや、たった三人でマクベスは無茶苦茶だろ、演劇部の友達に手伝ってもらったとはいえ何回同じ顔が出てくるんだよ」
「俺様の芸術が理解出来んとは。卑俗な奴め」
「でも、まあ、百瀬がいてくれたのは助かったよな。ヒロインまでお前の女装じゃコメディにしかならない」
「そうかぁ?口うるさいだけだし、俺はもっと清楚な女の子の方が良かったな」
「よく言うよ。百瀬が入部してきた時、嬉しさの余り鼻水は出すは、緊張して噛みまくるはで大変だったじゃないか」
「うるせぇ、莫迦洋孝」
 幼稚な小競り合いを始める光と洋孝。
 そこへ話題の美少女、藤之宮百瀬が姿を現す。
「二人して、また莫迦な事してる」
 長い髪を翻し、颯爽と登場した百瀬を前に光と洋孝の動きが止まる。
「光がさ、百瀬はおしとやかじゃないって言うんだぜ」
 洋孝の言葉に、百瀬の目が吊り上がる。
「何ですってぇ!?この観音様のように優美で慈愛に満ちた私のどこがおしとやかじゃないって言うのよ!」
 そう言って夜叉の如き形相の菩薩様は光の元へ歩み寄ると、その頬を摘み上げた。
「ひだぃ、ひだぃ。ふぉへのどふぉふぁおひひょはははんひゃひょ!」
 抗弁する光であったが頬をつねられてはまともに喋れない。
 そんな二人にカメラを向けながら、洋孝は尋ねた。
「百瀬は帰らなかったのか?」
 洋孝の言葉に、藤之宮百瀬の手が弛む。
「図書委員の友達が部活なんで待ってたら、あんた達の莫迦声が聞こえたのよ。あんた達こそこんな時間まで何やってんのよ」
「この三年間、楽しかったと思い返してたそがれてたんだよ」
「キャー、柄じゃ無ェ!」
「うるせぇ!」
「まあ、確かに楽しかっけどね。鎮守の森にロケに行ったり、駅でゲリラロケやったり」
 感慨に耽る百瀬。
 しかし、今まで伸びた頬をさすっていた光が突然声を上げた。


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