卒業-3
そして式当日。
いよいよ光が壇上に上がる時が来た。
「……み……番……波瀾光君」
名前を呼ばれ、前に進み出る波瀾光。
いざ証書を受け取ろうと手を伸ばした瞬間、少年探偵に扮した洋孝が逆光で姿を現した。
「怪盗赤マント、そこまでだ!!」
振り返る光。
「怪盗赤マントとは一体何の事だい?番外地君」
カメラ目線で外連身たっぷりに応じる怪盗赤マント。
証書を持ったまま、どう対応して良いのか分からない校長。
卒業生、在校生、教師に父兄。講堂にいる全ての人間が訳も分からず静まり返る中、光と洋孝は尚も芝居を続ける。
「これでも白を切り通せるかな?」
手にした小田原提灯を掲げる番外地少年。
その提灯を見て、赤マントの顔色が変わる。
「その様子だと、これが何なのか気が付いたようだな。そうとも、これが華代池の御令嬢殺害に使われた小田原提灯だ!もう言い逃れは出来ないぞ!」
教師の一人がようやく事態を飲み込み、声を上げる。
「彼奴等、また訳の分からん映画の撮影だな!?」
「ふふん、小田原提灯を見せられれば言い逃れは出来んな。だが私も稀代の怪盗と呼ばれた男。シャッポを脱がずに手袋を投げよう!」
怪紳士に早変わりする光。
それが映研のふざけた撮影であると悟った教師達は光を取り押さえようとするが、光が手袋を投げつけると白煙が上がりその行く手を遮る。
光の姿は煙に隠れるが、その向こうから百瀬に向けて声が上がる。
「百瀬、クランクアップだ!フィルムを没収される前に逃げろ!!」
本物の怪盗ではない光は忽然と消える事もなく、あっけなく取り押さえられる。
ふと我に返った百瀬はカメラを持って逃げようとするが、目の前に教師が立ち塞がる。
あわやと言う瞬間、番外地少年ならぬ洋孝が割って入った。
「百瀬、早く行けぇ!!」
教師達の迫り来る手をすり抜け、外に飛び出す百瀬。
その後、何処をどう走ったのか、気が付くと以前撮影に来たことのある鎮守の森にいた。
今更、誰も追いかけて来ない事は分かっていたが、カメラを抱えて古びた社の裏に身を潜める百瀬。
その時になってようやく自分が涙を流している事に気が付く。
そして、何故だか分からないが、泣きながら笑いが込み上げてくる。
「は、あは……光、洋孝。良い絵が撮れたよ」
百瀬はそう言って三年間の思い出を抱きしめた。
終。