崩壊〜執心〜-3
ポト…ポト…ポト、ポト、ポト
冷たい雨が上空から舞い降りた。仁志は一瞬、マンションのエントランスに避難しようかと思ったが、すぐに思い直した。
そこに住む人間が見せる目。その冷たさよりも、雨に濡れることを仁志は選んだ。
やがて、雨は本格的に降り出した。霧のような細かい氷雨に仁志の体温は徐々に奪われていく。
「仁志!」
雨に濡れ、かじかんだ身体で待つ仁志に聞こえた涼子の声。
仁志は声の方向に顔を向けた。
「…こんばんは、涼子さん」
「何やってるの!こんなに濡れて」
蒼白の顔には生気がない。涼子は仁志の濡れた身体に両腕を回して植え込みから立たせようとした。
「…何って……涼子さんに呼ばれたから…」
仁志は涼子に支えられて立ち上がった。が、ヒザは震えている。
「バカね…こんなところで待ってるなんて」
2人はよろめきながら、エントランス・ホールを潜ってエレベーターに乗り込んだ。
涼子は仁志を支えたまま入口のドアを開けると、真っ直ぐバスルームへ連れていった。
「とにかくシャワーを浴びて、身体を温めなくちゃ」
焦燥した表情で仁志の服を脱がそうとする涼子。だが、彼女自身、指先がかじかんでボタンを上手く外せない。
(もういいわ)
意を決した涼子は、仁志を服のまま風呂場に入れるとシャワーのコックをひねった。
熱いシャワーが2人の身体を打ちつける。みるみる服は濡れてしまい、お互いのシルエットを浮かび上がらせる。
「仁志…君。大丈夫?」
熱いシャワーで、ようやく寒さから解放された仁志は目の前の涼子に笑顔を見せた。
「涼子さん、すいません。ご迷惑掛けちゃって」
「そんな事はいいから。温まったら服を脱いで」
「あ…はい」
仁志は、言われたままシャツのボタンを外して脱ごうとする。身体に貼り付いたシャツは容易に脱げない。
「ぐ、クソッ」
「ちょっと待って」
力まかせにシャツを引張る仁志を、見かねた涼子がそばに寄った。
「こういうのはね、シャツの両端を肩口まで開いて…」
涼子の手が胸元に伸びる。開いたシャツの間から両手が滑り込んだ。
指先が仁志の身体に触れた。シャツの前が大きく開かきながら、涼子の掌が胸元から肩をトレースする。
「ヨシ、背中を向けて」
言われたまま背中を向けると、今度は袖を引張りながらシャツを脱がせた。