DEAR PSYCHOPATH−6−-2
「え?」
予期せぬチャールズの一言に面食らった僕は、ただそこに立ち尽くすしかなかった。でも決してそれは、聞き違いなんかじゃない。確かに彼は、『人殺し』。そう言ったのだ。
「それでもお前はやるというのか?」
と彼は低い声で、きいた。
「・・・」
ことの大きさに思い浮かぶ言葉もなく、横に立つ流をチラリと見やると、彼もちょうどそうしたところで目が合った。さっきよりももっと深刻な顔つきだ。この表情を見ただけでも、チャールズの言葉が嘘じゃないくらい、十分すぎるくらい分かる。
「人殺しは罪だ。それくらいガキのお前だって分かるだろうが」
「それは・・・」
喉に蓋をされたように息苦しい。僕はうつむいた。
「さっさと帰れ。お前には無理なんだよ」
そして付け足すように流も言った。
「確かに私達がこれからしようとしていることは人殺しです。しかしさっきも
言ったように、それをやらなければ、私たちの命が危ないのです」
「自分の命を守るためらなら、何をやってもいいのかよ」
絞り出すように、僕は言った。
「確かに、あなたの言うとおり殺人は重罪です。でも、聞いてください。人はそれぞれ、必ず前世を持っているものです。けれど、通常であれば現世の人間はそれに気がつくことなく一生を終えてしまいます。しかしどういうわけか、私たちはそれを思い出しかけている。私たちの前世が、再び現代に甦ろうとしているのです」
「知っているよ。だから何だっていうんだよ」
「だったらその理由は何でしょう?」
「何?」
「なぜ、私達の中で『彼ら』が目編めようとしているのでしょう」
そんなこと考えもしなかった。けれど言われて見ればそのとおりだ。ことが起こるには、いつもそれなりの理由というものがちゃんと存在するものであり、だから多分、僕らの覚醒についてだって同じことが言えるはずである。
そして彼が濡れた唇を開いて、その答えを口にしようとした時だった。
「俺たちは同一の目的を、復讐という名の呪いを抱いて覚醒したのさ。ただ、一人の男に対して・・・な」
割って入ったのはケイコさん・・・いや、チャールズだった。
「理由は違っても、俺たちは全員、前世の世界で同じ人物に恨みを持っていたのさ」
「つまり?」
込みあげようとする何かを押さえながら、僕は彼の答えを促した。
彼はわずかな沈黙の後、低く言った。
「俺たちが覚醒した理由・目的。それは俺たちと同じようにどこかで覚醒している、その男を殺ることだ。罪なんて関係あるか。俺たちは・・・やらなきゃならない」
「そんな・・・」
僕は目をむいた。話の途中から予想していた答え、そのままだったのだが。それじゃあ、そうなると・・・あんまりだ。
「けどそれは前世の罪だろ?今の人には全く関係ないことじゃないか?」
思ったとおりのことを、僕は言った。当然だ。前世がどうだこうだで殺されてたまるかっていうんだ。しかし、彼らには僕の言いたいことがまるで分かっていないようだった。流はあごをしゃくったままで僕を見つめ、チャールズといえば呆れたと言った顔でかぶりを振っている。
僕は僕で、「何怒ってるんだよ。当然のこと言っただけじゃないか。こんちくしょう!」何てことを口に出来るはずもなく、ただただ石と化していた。
そして、先に口を開いたのはチャールズだった。
「驚いたな」
と、にべもなく言ったのだった。
「そんなことを口にするところを見ると、ほとんど覚醒してないんじゃないか」
「ええ」
と流も言った。
「ですから、よけいに戦力になってほしんですよ忍にはね。彼はきっと一番の戦力に・・・」
「駄目だ」
言いかけた流を、やっぱりチャールズが遮った。
「常識があるのならなおさらだ。おい忍、お前はやっぱり帰れ。足を引っ張るだけだ」
「でも・・・痛ってぇぇ!」
チャールズが力いっぱいひねって自分の顔の方へ寄せた。やってることも間抜けなのに、表情がそれとは裏腹に真面目なので、この状況はさおかし大間抜けに見えることだろう。
しかしそれにもかまわず、彼は唾を飛ばして言った。
「駄目だと言ったら駄目だ。さっさと帰れいいな、いいな!?」
それはほとんど脅しに近いものだった。