王子様と私 2-2
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がらんとした図書館は、城内でも好きな場所だ。
濃厚な古紙の香り。たいして好きでもないめくるめく学問の世界に、間違いでもいいから飛び込んでおけばよかった。そうしてしたらきっと、私はここの掃除ではなくて、司書や学者さんになっていたかもしれないのだ。
なんだか最近の私は、後悔後を絶たずだ。
そんなことをだらだら考えていると悲しくなってきた。真面目に仕事に取り組んでいるのもばかばかしくなってきた。
他の侍女たちは基本的に自分が連れてきた側付きに城の仕事を任せているから、与えられた仕事を自らせっせとこなすのは私くらいのものなのだ。そして貧乏領主の娘にとって掃除のひとつやふたつはお手のもの。
特に図書館なんて、使う人が限られているから綺麗なものだ。
「お疲れさん、今日はもう終わりか?」
深い声に私は立ち上がり、振り返った。
やわらかそうな栗色の髪と同色のきれいな瞳、すらりとした長身。
私は図らずも笑顔になった。
「フレイ……!」
司書のフレイは、城内で私以外の唯一の十二領出身者。私より三つか四つお兄さんで、よく勉強を教えてもらった。
彼はそんな素振りをまったく見せないが、きっと苦労したはずだ。
眉目秀麗で、若いながらに優秀だから、なおのこと。彼の足を引っ張りたいと思う輩は少ないはずがないだろう。
「しかし、すごいな。あちこちでエルの話を聞く」
「どうせ悪口でしょ」
「まぁ、平たく言えば」
悪びれなく、フレイは肩を竦めてみせる。
本当になにをしても様になる。失礼だけど、王子よりも断然良い男だ。
「ライン様はなにか言ってたか?」
「知らない。あれから会ってないし、別に私に固執してるわけじゃないと思う」
「俺はそういう根拠のない、一方的な話はどうかと思うぜ?」
「……根拠って」
「だって、エルはライン様じゃないだろうよ」
粗野な物言いは彼が私を対等と認めているから。
わかっているが、かちんとくるし、きちんとした理論があるから、反論もできない。
ふと、フレイが私から視線を逸らした。
笑いをかみ殺したような顔で言う。