蜘蛛の糸-1
額に油汗が浮いてくる
胃もキリキリと痛い
(私はどうしたらいいんだ・・・?)
今、私は会社帰りの電車の中で苦渋の選択を迫られている
目の前には20代前半と思われる女性が座っている
仕事帰りで疲れているのだろうか、眠っているのでよく分からないが、なかなかかわいらしい
そんな彼女をぼーっと見ているとあることに気づいたのだ
蜘蛛が
蜘蛛がいるんです
彼女の胸元に
今にも彼女の服の中に入り込みそうだ
周りの人は誰も気がついていない
彼女を起こしたら、振動で蜘蛛が中に入ってしまうそうだ
A.無視する
B.気がつかれないようにそっと蜘蛛を取る
取るべきか無視するべきか
自分の娘程の年齢の彼女
蜘蛛が体の中に入り込んだらどれほど嫌だろうか
しかし私は仕事帰りでくたびれたサラリーマン
端から見ればどれほど怪しく見えるだろうか
そんなことを悶々と考えていると電車が大きく揺れた
やばい
反射的に手が伸『あ』
あまりに挙動不審な私を睨みつける彼女の目はキレイだった
・
・
・
・
・
駅員にホームに引っ張り出され時、夕焼け空を見上げてみても、私の前に糸は垂れていなかった