エンジェル・ダストB-8
「なんです…あの高圧的な態度」
駐車場のクルマに乗り込んだ宮内は、憮然とした表情で声をあげた。官僚然とした2人の態度が気に入らないのだろう。
しかし、佐藤は別の事を考えていた。このまま自分達が進めても、分析についてヤツらが口を割るとは思えない。
一瞬、“情報公開法”が頭に浮かんだが、それには遺族の請求が不可欠だ。
(これ以上、家族を巻き込むのはマズいな…)
「とりあえず署に戻って証言を整理しよう。それと、新しい鑑識結果も出てるだろうからな」
2人は防衛省中央司令部を後にした。
佐倉と宮内が署に戻ると、すぐに久芳から声が掛かった。
「佐倉君。署長がお呼びだ」
久芳はそう言うと席を立ち、2人の前に出た。佐倉は、署長が呼び出されたた理由がなんとなく分かった。
エレベーターは最上階で止まった。久芳を先頭に、佐倉、宮内は廊下の奥の署長室に向かった。
久芳は呼吸を整えるとドアをノックした。中から“どうぞ”と声が返ってきた。
「失礼します!署長。佐倉と宮内を連れて参りました」
室内に入ると、正面奥の重厚な机に署長の笹川は座っていた。
「ごくろうさん。君は戻っていいよ」
「エッ、しかし…」
「彼らに2〜3聞きたいことが有るだけだ。君は必要ないよ」
笹川の優しくも、威圧的な口調に久芳は何も言えなくなった。
「…では…」
久芳が肩を落として署長室から出ていくと、顔を佐倉に向けた。
「報告書は読んだ。何故、自殺である教授を解剖する?」
先ほどと口調が違う。明らかに好戦的だ。
「ご遺族の要求です」
「遺族の要求だと?どうせ、おまえ達が焚きつけたんだろう」
「いずれにしても、ご遺族にとっては当然の権利です」
佐倉はそれ以上、何も言わない。その態度に笹川は佐倉を睨み付けた。
「おまえ達に言っておく。大河内貞臣は自殺だ。そのことを頭に叩き込んで処理しろ」
佐倉は、無言で笹川に一礼すると署長室から出ていった。
宮内が後に続いた。
「さ、佐倉さん。このまま止めちゃうんですか?」
エレベーターの中で宮内が訊いた。佐倉は表情を変えずに答える。
「そんなわけ無いだろう…必ず真実を暴き出してやる」
夕方。勤務を終えた佐倉は、宮内を連れて署を出た。