エンジェル・ダストB-7
「〇〇署、捜査1課の佐倉と宮内です」
防衛省中央司令部の1階にある小さなレセプションルーム。佐倉と宮内は、初めて佐藤に田中と対面した。
「教授、亡くなられたそうですね」
田中が口を開いた。
「何故、我々にそれを聞かせるんです?」
佐倉の言葉に、田中の口許がわずかに開いた。
「違うのですか?」
「いえ。確かにそのために来たのですが、普通、刑事が訪ねてきたら“何の用です”と聞くものと思ったもので」
佐倉は佐藤の方を見た。最初見た時からポーカーフェイスだ。
濃いサングラスで目の変化が分からない。やり難さを感じたまま、質問を続ける。
「ところで、いつ教授が亡くなったのを知ったのです?」
「助手の間宮氏に。昨日朝8時、私達は教授をお迎えに自宅に行ったんです。
しかし、30分待っても現れない。奥様に事情を聞くと昨日から帰ってないと。そこで大学へ向かったわけです」
「それはおかしいですね。間宮さんは第1発見者として身柄を拘束されていたハズですが?」
「私達が教授の事を知ったのは昼過ぎです。今後の事もありますので、間宮氏に連絡を取ったのです」
「…ああ。あなた方が教授に依頼された分析の事ですね」
佐倉は探るような目で2人を見た。が、その表情からは何の手がかりも掴めない。
「ところで、間宮氏の話では教授は自殺されたとか。ただ、私達は正直困惑してるのです」
今度は佐藤が口を開いた。
「困惑…ですか?」
「ええ…私達が教授に依頼した分析は、あと3日間の猶予がありました。それに一昨日、教授は分析を終えて大学に向かうよう言われたのですから」
「大学には何をしに?」
「私達には“分析の目処がたった。今日中にさらに詰めたい”と言われてました」
(間宮の証言と一致するな…)
「ちなみに、教授に依頼された分析とはどういったモノなんです?」
佐倉の質問に、佐藤は表情を少しも変えない。
「それは、今回の件に関連があるのですか?」
「今回、様々な方に教授の事を聞いてきました。そのすべてが動機が見出せないと言っています。
私はね、佐藤さん。あなた方が依頼した分析にヒントが有ると思うんですよ」
佐倉の挑戦的な言葉。佐藤は口許に笑みを浮かべた。
「刑事さんの仰る事は分かりました。しかし、今回の件は防衛省の機密事項に抵触します」
あからさまな妨害。佐倉はこれ以上聞く事はないと席を立った。
「刑事さん…」
佐藤が佐倉を呼び止める。
「今後、私達への事情聴取は、上官の許可を取っていただけますか」
「あなた方の…上官?」
「ええ。研究所の所長です」
「それは、誰なんです?」
「それを調べるのも、あなた方の仕事でしょう」
佐藤と田中は、一礼するとレセプションルームを出ていった。