エンジェル・ダストB-6
「今日から、どういう捜査を行うんです?」
「おまえはどうしたいんだ?」
佐倉はそのギョロ目をさらに大きく見開き、宮内を逆に問い質して答えを引き出す。
「そうですね…案件が殺人に切り替えられたら、まずは防衛省研究所を探りたいですね」
「良い着眼点だ。大河内にアプローチしてきた佐藤に田中から、防衛省がどんな仕事を依頼したかだな」
「そうですね。それに、引き続き助手の間宮に聞き込みをしましょう」
「間宮を?どうして?」
「昨日は彼も動揺していたでしょうから。冷静になれば様々なモノが見えてくるハズです」
その答えに佐倉は満足した。
「オレがやる必要は無いな。捜査はおまえに任せて大丈夫だ」
「じ、冗談は止めて下さいよ!自分なんかまだまだです!佐倉さんに教えて頂かないと、何も出来ないんですから」
宮内は慌てふためいて前出の言葉を否定する。佐倉が相棒兼教育係となって2年。そろそろこいつも1本立ちの頃だと思った。
「皆んな、おはよう!」
課長の久芳がフロアに現れた。1課のメンバーは席を立つと、一斉に一礼した。これだけでも規律の高さが伺える。
「新しい事件、及び各事件の進捗状況を報告してくれ」
命令により、各専従捜査官が担当事件の捜査状況を詳細に報告を始めた。周知する事によって、刑事一人々がすべての事件について頭に叩き込む。
いつ担当者が入れ替わっても支障が無いように。
佐倉の番になった。
「昨日起りました東都大学教授、大河内貞臣の事件ですが、殺人への立件変更をしたいと思います」
久芳は俯き、目を伏せて報告を聞き入っていたのを止めた。
「理由は?」
「昨日、大学関係者に家族と大河内貞臣の周辺を聞き込みしたところ、彼が自殺する動機が見当たりません。
それから、鑑識からも他殺と認識しうる結果が得られました。詳細な情報は報告書に記載しております」
久芳はデスクに置かれた報告書を手に取るとページをめくった。途端に表情は厳しいモノに変わった。
佐倉はおかしいと思った。このような報告で、何故、久芳は顔色を変えるのか。
「この、死体件案書に書かれた“要行政解剖”というのは何だ?」
「遺体が他殺である以上、解剖で死体検案書を発行してもらう必要があります」
佐倉の自信に満ちた言葉に、久芳はメガネを外してフーッと息を吐いた。
「分かった。一応、署長に上申しよう」
報告を終えた佐倉は、宮内を連れて署を飛び出した。久芳の自分に対する応答に不安を覚えたからだ。
「まずは防衛省研究所ですね」
運転する宮内は、脳天気にこれからの捜査を楽しんでいるかのようだ。
「いや、先に大河内の助手に会いに行こう。防衛省はそれからだ」
「分かりました」
宮内はクルマを大通りへと急がせた。