エンジェル・ダストB-14
「佐倉さん。あなたには即刻辞めて頂きたい」
「そんな!私はまったく知らないんだ」
「通常なら査問会が開かれるところです。そうなれば、あなたは立件され刑事罰を受けることになる。
何度も長官賞を取られ、素晴らしい経歴を持つあなたを立件するのは我々としてもしのびない。辞表を出して頂きたい」
こうして、佐倉は警察官を辞めさせらた。
その2ヶ月後、組織犯罪対策課は証拠不十分により、大河内貞臣殺人事件を迷宮入りとした。
「それからは坂を転がるようでした。佐倉さんは酒に溺れるようになって…奥さんや子供にまで暴力をふるうようになったんです」
宮内の声が途絶えた。恭一は何も語らず、思いを馳ていた。
(…掴んだヤマがデカ過ぎたか…)
殺人現場で出くわした時の、正義感あふれる姿が頭に浮かんだ。
「話は分かりました。そこで、ひとつ宮内さんに確認したいのですが…」
恭一の声に、宮内は俯いた顔を上げた。
「私が依頼を引き受けた場合、遅かれ早かれ相手は情報のリークに気づきます。
その時、真っ先に疑われるのは宮内さん。あなたですよ」
「構いません!私の信頼する佐倉さんをヤツらは潰したんです。これは、警察組織に対する復讐です」
宮内は即答すると、内ポケットから分厚い封筒をテーブルに置いた。
「…私の全財産です。それで足りなければ、金は必ず用意します。だから松嶋さん、引き受けて下さい!」
宮内はソファから降りると、床に手を着き頭を擦りつけた。その両肩は小刻みに震えていた。
「宮内さん。手を上げて下さい」
「じゃあ、引き受けてくれるんですか?」
恭一は頷いた。
「費用は1日2万、必要経費は別途です…」
「ありがとう…ありがとう…」
宮内は恭一の手を両手で握り感謝した。溢れた涙が床を濡らした。
…「エンジェル・ダスト」B完…