エンジェル・ダストB-12
2日後。佐倉は、出揃ったすべての鑑識結果に目を通していた。
検視の結果、首の圧迫による窒息が死因。但し、首の索条痕は生活反応が希薄。
衣服からは本人、家族以外が触れた痕跡は無し。その他、現場にも大学関係者以外の痕跡無し。
(生活反応が薄いとなると、死亡直後に吊ったのか…)
次に佐倉は、死体検案書のコピーを手に取った。
解剖の結果、肺臓のダメージから死因は窒息死。但し、頸部圧迫が直接原因でなく何らかの毒物により、呼吸困難に陥った模様。
しかし、毒物摂取で表れるような臓器へのダメージは皆無。
2つの結果を統合すると、大河内の死亡推定時刻が午前1時±2時間。殺害場所は実験棟の私室。
容疑者は、検死や解剖でも見つけられない毒物で大河内を殺害し、その直後に自殺に見せかけるようカモフラージュして姿を消した。
(…おそらく、大河内は何かを知ってしまった。だから消された)
インスピレーションで繋がったストーリーが、少しづつ現実を帯てきた。
佐倉は、となりに座る宮内に囁いた。
「防衛省のデータベースから、研究所の所長を探してくれ」
宮内の顔がパアッと輝いた。
「また行くんですね」
「その時のために準備しておくんだ」
佐倉の顔も輝いていた。
だが、彼らの動きはすべて監視されていた。
目の前で話す宮内が、恭一には小さくしぼんだように思えた。
「どうぞ…」
置かれたコーヒーカップを両手で包むよう持ち口許に運んだ。
「捜査は順調だったんです。事件から半月後には殺害の有力な証拠を揃え、再び殺人事件として立件するよう申請したんですから……」
事件から1ヶ月経ったある日。署に戻った佐倉は再び署長に呼び出された。