エンジェル・ダストB-10
「オレは、これから“ふみ”とメシを食いに行くんだが、おまえもどうだ?」
佐倉は嬉しそうな顔を宮内に向けた。が、そんな意外な一面に宮内は呆れ返った。
「佐倉さん、何を言ってるんですか!事件の情報整理をほっぱり出して…まして記者と食事なんて、服務規程に抵触しますよ」
「そう硬い事を言うな。とにかく、付いてくれば分かる」
結局、3人はタクシーに乗り込んだ。向かった先は朝陽新聞社ビルの地下。
地下にある飲食店スペース。その一角にある小さな小料理屋の座敷間に、佐倉達は来ていた。
6畳の間のテーブルには飲み物が置かれただけ。ここは、佐倉と柴田が情報交換の場に使っていたのだ。
「佐倉さん。大河内教授が自殺された件なんですが、どう思われます?」
席に着くなり、柴田は佐倉に疑問をぶつけてきた。
「ノーコメント。それより、おまえさんはどう思う?」
「自殺ではないと思います」
「何故?」
「取材結果です。皆が一様に動機が見当たらないと言っています」
柴田の目がシャープさを増していく。取材には絶対の自信を持っている姿だ。
佐倉は、水をひと口飲んで息を吐いた。
「…確かに、我々も自殺ではないと考えている。現在、そのための証拠集めを進めている」
「ち、ちょっと!佐倉……」
宮内が止めようとするのを佐倉は右手で制した。
「…宮内。ひとつ言っておく。今後、署内には仲間が居ないと考えろ」
そして、再び柴田の方を向いた。
「県警では、今回の件を自殺で片づけたいようだ。だが、オレは必ず殺害で立件するつもりだ」
深いシワが刻まれた決意の表情に、宮内は息を呑んだ。
柴田は再び佐倉に訊ねた。
「立件するための切札は?」
「現状では、大河内の遺族にすがるしか方法はない」
「行政解剖…ですか?」
「それに、情報公開法…」
佐倉は再び水を口に運んだ。
「それと…これはオレの勘だが、この事件はもっとでかいウラがありそうなんだ」
「でかいウラって?」
「それは分からん。そのカギを握るのが、大河内が依頼された分析だと思っている」
「防衛省が、細菌学の権威に何を依頼したか……」
佐倉の言葉に、柴田は考え込んでしまった。防衛省相手では取材はまず無理だ。
「結局は情報公開法か…」
だが、仮に防衛省が情報を提出したにしても機密事項を傘に、ほとんど読むところのない墨で塗り潰された書類に決まってる。