やっぱすっきゃねん!VD-4
翌日。
精華中学との練習試合。第1試合を9-1、第2試合も3回まで終わって6-0だった。
4回裏。精華中学の攻撃で永井は大幅に守備を替えてきた。センターの加賀、ライトの佳代以外はすべて2年生という布陣だ。
これは、半ば永井の親心だった。練習といえども、競った試合になれば2年生の出番はほとんど無い。そこで、このような格下相手の場合に出場させて、モチベーションを維持させるのだ。
しかし、加賀や佳代の3年生は違った。加賀は淳の、佳代は田畑と交替で出て来たのだから、当然、面白いわけがない。
だが、2人共そう考えてなかった。使われた事に対し、精一杯の努力をしようと思っていた。
精華中学は1番から。ピッチャーは中里、キャッチャーは下加茂。
3球目を叩いて打球は緩いショートゴロ。バッターは必死に1塁へ駆けて行く。ボールを掴んだショートは、身体を反転させながらステップ無しでファーストに送球したが、わずかの差で間に合わなかった。
続く2番が送りバントを決めてランナー2塁で3番を迎えた。下加茂は外角一辺倒を攻めていた。
カウントは2ボール2ストライク。中里へのサインは外角低めのストレート。
中里はセカンドランナーを十分警戒してから投げた。
「アッ!」
下加茂は声を発した。ボールは外角低めでなく真ん中に入ってしまった。
バッターは強く叩いた。鋭い金属音を残し、打球は真っ直ぐにセンターへと飛んでいく。加賀は帽子を取り、躊躇なく後を向いて駆けだした。
(…ぬ、抜かれる!)
佳代はセンターを抜けると思い、加賀のさらに後方を回り込むように走って行く。
セカンドのランナーは長打を確信して3塁を回ろうとしていた。加賀は打球を見ず、落下点を予測して必死に走る。
(…ここだ!)
加賀は地面を蹴ってグラブを伸ばした。まるで測ったかのようにボールが収まった。
「うっそだァ!」
加賀のプレイを目の前で見た佳代の口が思わず叫ぶ。間違いなく長打と思ったからだ。
「カヨッ!」
加賀は後方に流れながらバッグトスで佳代にボールを投げた。3塁を回っていたランナーは必死に2塁に戻ろうと走っている。
ボールを受けた佳代は、大きく振りかぶってセカンドへと返球した。
ランナーが2塁に滑り込む。ボールは、バウンドしてセカンドのグラブに収まった。
「ランナー・アウトッ!」
2塁審判の右手が上がった瞬間、青葉中学ベンチが沸きあがる。無得点に終らせたばかりか、ピンチを好守によって切り抜けられたのだ。
「ナイス・プレイ!」
加賀の帽子を拾った佳代は、グラブを突き出し笑っている。
「おまえもな…」
加賀は帽子を受け取ると、佳代のグラブに自分のグラブを合わせた。
「次は攻撃だ。打って行こうぜ」
「わかった!」
2人は、笑顔が待つ自分のベンチへと駆けだした。