やっぱすっきゃねん!VD-3
修は両方に指差すと、
「姉ちゃんと一緒だったの?」
「違うよ。佳代が庭で素振りをしていたのさ」
「エッ?姉ちゃん、帰ってたの」
修の見つめる先で、佳代は俯いたままバスルームに消えた。そんな態度が健司は少し気になった。
「今日、部活で何かあったのか?」
「何も。逆に練習試合にも出だし、ホームランも打ったんだよォ」
「ホームランを?」
「うん!こうやって…凄い打ち方で。あんなの初めて見たよ」
修は身振り手振りを混じえて、バッティングの凄さを伝えようとする。健司はそれを見て、しばらく考えていたが、
「…そうか、まあ、何か納得いかない事があったんだろう」
そう言って話を切ってしまい、寝室に向かうと着替えてキッチンに現れた。
「アラ?今、佳代の声が聞こえたけど」
「ああ、佳代なら先に風呂に入ったよ」
「どうしたのかしら?自宅へも入らず素振りをやってるなんて…」
「何か気にいらないモノがあったんだろう。君だって大学の時はそうだったろう」
「そういえば…夜中までラケット振ってた事もあったわね」
健司が夕食を始めた頃、風呂から上がった佳代が現れた。髪の毛から滴るお湯を構おうともせず、テーブルに腰掛けると俯いていた。
「ホームランを打ったのそうじゃないか?」
健司は対面から声を掛けた。しかし、佳代は冴えない顔を見せている。
「…ホームランなんて、たまたまだし、その後は全然ダメで…」
「それで帰っても素振りをやってたのか?」
「それもだけど…周りを見たら自分が恥ずかしくて」
佳代は先ほど聞いた直也の話や、今日の格上との試合にも一丸となって挑んで、結果、快勝した事を話した。
「そんな風に、皆んな今年の大会に必死なのを見て、自分が如何に周りの事も考えずにやってたのかを思うと…」
「だから皆んなのように、必死になってやりたいと?」
強い決意に満ちた眼差しで頷く。そんな娘の思いに健司は目を細めた。
「佳代の思うとおりにやりなさい。今年で最後だ。悔いのないようにな」
「ありがとう、お父さん」
佳代は、かき込むように食事を平らげると“明日の用意が有るから”と慌てて出て行った。
そんな姿に目をやりながら、加奈は健司に問いかけた。
「良いんですか?あんな事言って。オーバーワークになりはしませんか」
「その時はその時さ。それよりも、あの娘が“チームのために必死にやりたい”って思いの方が大事だよ」
“おまえはチームのために何が出来る?”
以前、佳代に問うた言葉。昨年、1度は諦めた野球。そこで知ったハズだった1球の怖さ。
しかし、野球部に戻って半年以上過ぎたが、未だ楽しさの中で続けている事に気づいた。
そして今回、ようやく答えを見つけ出してくれた。その事が健司には嬉しかった。