やっぱすっきゃねん!VD-2
「おかげで田畑と替えられちゃうし、良かったのか悪かったのか…」
「そう落ち込むなって、しばらく試合から遠ざかってたから勘が戻ってないのさ」
「そうだよね。これからだよね」
励ましに納得する佳代。そこで、話題を直也に変えた。
「そう言えば、アンタも初勝利じゃない?」
「ああ…勝てないままにズルズルと1ヶ月も掛かっちまった。だが、今日はたまたまだ」
「たまたまって?」
「新しいメニューをやり出して、まだ1週間なんだ。後、数週間はやらないと…結果が早過ぎだ」
その思いに佳代は驚いた。直也は自身の事をキチンと分析して、夏の大会に最高のパフォーマンスを発揮出来るよう努力してたのだ。
「じゃあ、私、帰るからさ」
「オイッ、急にどうした?」
直也が声を掛けるが、佳代は無視するように自転車をこぎ出し視界から遠ざかって行った。
「…何だよ」
佳代は恥ずかしかった。直也の今年に賭ける思いを面あたりにして、自分は具体的に何も考えていない事に。
(…何やってんだ!藤野コーチのメニューに満足して、自分のやる事忘れてしまって…)
佳代は自宅に着くと、中へは入らずユニフォーム姿のまま庭へ回った。荷物を傍に置き、ケースからバットを取り出した。
グリップの握り、両足の置き方、バットの構え、体重移動と、バッティングの動作ひとつ々をチェックしながら素振りを始めた。
厳しい顔で確かめるよう、何度も何度も振り続ける。
どのくらい経っただろうか。佳代の背後から声が掛かった。
「何してるんだ?佳代」
「修、お姉ちゃんはまだなの?」
修が帰宅してから1時間あまり。すぐだろうと夕食をテーブルに並べた加奈は、未だ帰らない佳代が心配になってきた。
「さあ?学校出る時は、直也さんや達也さんと一緒だったけど」
帰宅して待ちきれなかった修は、さっさと風呂と夕食を済ませていた。
「アンタ、ちょっとその辺見て来なさい」
「エエ〜!もうちょっと待ってりゃ帰って来るよォ。コンビニでも寄ってるかもしれないし」
「今まで1度だってなかったでしょう。ちょっと見て来て」
それ以上言い返せない修は、さも嫌そうなため息を吐いて玄関へと行こうとした時、合わせたかのようにドアフォンが鳴った。
「…?」
修は思わずドアを開けた。すると、そこには父親の健司と佳代が立っていた。
「父さん…に、姉ちゃん?」
「ただいま修」
健司は、自分の荷物と一緒に持っていた佳代の荷物を玄関口に置いた。