『壁の向こう』-8
「それなら…またリベンジしてくれる?」
「えっ?」
「もう一回…したい…な」
亜弥が渉の顔を覗き込む。
「だめ?」
「…俺でいいんですか?」
「私神崎くんがいないともうだめみたい。一人じゃこんなに気持ちよくなれないもの」
「上杉さん…」
渉は亜弥をそっと抱き締めると再び愛撫を始めた。亜弥はうっとりと目を閉じて快感に体を委ねる。
その時…
「ぐーっ」
部屋に響いた間抜けな音に亜弥は目を開けた。
「ご、ごめんなさい…」
「神崎くん?」
「お腹減っちゃって…あ〜俺ほんとだめだ…」
再びがっくりとうなだれる渉をみて亜弥は久しぶりに心の底から笑うことができたのだった。
その日から渉が壁の向こうに耳を澄ませることはなくなった。なぜなら一番聞きたい声は耳元で聞くことができるようになったから…。その声は今夜も渉の部屋で響き渡っている。