『壁の向こう』-3
「あっじゃあ俺片付けるの手伝いますよ!大変でしょ?」
「そんなの悪いわ。大丈夫一人でできるから」
「気にしないで下さい。どうせ何にもやることないし」
亜弥は最初は渉の申し出を受け入れることに難色を示していたが、勝手に亜弥に負い目を感じている渉は頑として譲らなかった。
「うーん…じゃあお願いしちゃおうかな」
「任せて下さい!」
渉が勢いよくそういうと亜弥が柔らかく微笑んでくすくすと笑い声を漏らした。その表情はいつもの隙のない亜弥からかけ離れた印象を渉に与えた。
「…こんなもんでいいですかね?」
渉はパンパンと手をはたきながら、大分さっぱりと綺麗になった部屋を見渡した。
「えぇ。神崎君本当にありがとう」
「いえいえ。あっまだひとつ残ってますね」
渉はベッドの足元に置かれた段ボール箱に気付き、それを開けた。
「神崎くんそれはダメっ…!!」
亜弥がそう叫ぶより早く渉は中身を確認してしまっていた。その中にはー
「こ…これ…」
亜弥が慌てて渉の手から段ボール箱を取り上げる。
「す、すみません!俺また余計なこと…」
「…軽蔑した?」
「えっ?」
「軽蔑するわよね…こんなもの持ってたら…」
その段ボールの中にはアダルトDVDが数本とバイブやローターなどいわゆる大人のおもちゃが入っていた。
(上杉さんこれ使ってオナニーしてたんだ…)
渉はそう合点がいったが、亜弥は耳まで真っ赤になってうつむいていた。
「こんなこと本当に言い訳にしかならないと思うんだけど…私ずっと前の夫と夫婦生活がなくて…それで習慣みたいになっちゃってて…ってなに言ってんだろ…」
亜弥は完全に取り乱しており、今にも泣き出してしまいそうだった。
「上杉さん!俺軽蔑なんてしてないから安心してください」
「嘘よ…」
「本当です!だって俺上杉さんがオナニーしてるの前から知ってましたから!!」
「…えっ?」
渉の言葉に亜弥が顔を上げた。
(し、しまった…!)
自分の発言がかなりの問題発言であることに気付き、渉の顔がさっと青ざめる。
「えっとあの…」
「なんで?なんで知ってたの?」
「か、壁が薄いんですよこのアパート…だから声が…上杉さんの声が俺の部屋まで…俺その声いつも聞いてました!本当にごめんなさい!」
渉は勢いに任せて謝罪し、頭を下げた。二人の間に気まずい沈黙が流れる。