囀ずるのは春だから-1
目は口ほどにものを言う
今ほどそれが身に染みることはなかった。
あんな、あんな――苦しくて痛そうな顔、ハルにはさせたくなかった。
させたくなかったのに。
一番傷つけたくない人を私が傷つけた。
「ハル!鶯!待って!!」
「――…何で俺が待つの?紗英が追いつけば」
ヒールを鳴らして小走りになりながら、さっきのことを思えば後悔しかでてこない。
例え…からかわれたって、本当のこと言えばよかった。
嘘をついたわけじゃない……でも躊躇したのは、わざと言葉を濁したのは……私のプライドを守るためだったんだ。
ごめん、ごめん…鶯……
背中を向ける鶯を、すぐに追いかけられなかった
その分空いた隙間を埋めようと走る私の頭のなかには、あの目がこびりついてる
水が膜になって光った……涙がめいっぱい瞳にたまる目。
そんな目で怒ったように顔をしかめながら、…奥の方では、何かを耐えたみたいな――傷ついた色をした目が、忘れられない。
どうしよう…
どう、しよう……
キッカケは――些細で、それでも私たちには重要なことだった。
会社の打ち上げ。
女の子の少ない部署だからテキトーに休んで、なんて後輩ちゃんにだけオジサンたちの相手、させらんない。
ま、若い子もいるけど……酒に酔って絡んでくるオジサンのパワーっておそろしい。
それにミョーに厚かましくなる若い子のパワーはちょっと苦手だ。
酔っぱらいに絡まれるのはうんざり。
いい気分のほろ酔い加減が台無し。
「若いのにはキョーミな〜いの!まだコドモじゃない」
「紗英先輩、つっれねー」
そうやってビミョーなラインで人をネタにしてくる、ミョー…に厚かましい後輩クンをあしらってるときだった。
――ハルがいたのは
「………紗英さん?」
「あ、ハ…ル……」
「あっれ〜先輩の弟〜?かっわいー。あんぐらいをコドモっつーんですよぉセンパーイ」
「ちょ、何言っ…ハルは…私の……」
ケタケタ笑う後輩クンにすぐに返せなかった。
その後ろに立つ上司の先輩や同僚や、目に入れた瞬間……躊躇した。
ちがうって、恋人だってすぐに言えなかった
――言い出せなかった、…自分がいた
そっから、どうしようもなくなった