囀ずるのは春だから-2
立ち去るハルに気づいて適当に言い訳してすぐさま追いかけても、ハルは立ち止まってくれない
私の方を、みてもくれない
「待って、待って!ハル……お願い、話きいて。鶯…」
ヒールが鬱陶しい。
パンプスなんて脱ぎ捨てて裸足でいい。
走り寄りたい。
ハルは容赦なくスニーカーで早足に歩いていく
私はもう半分走らなきゃ追いつけない
「待、…って!!」
「紗英にとってさ、俺はやっぱりガキなの?」
「ちがう!ちがうの!」
「じゃあ何でだよ……俺さ……いっつもこんな気分なんだよ?」
「………はる、つぐ?」
「紗英が――さっき俺を追いかけてたとき……すっごい不安じゃなかった?」
――不安、だった…
待って
追いつかせて
先に行ってしまわないで
置いていかないで
――ずっと……不安で心細かった
叫び出したいくらい置いてかれたらと思うと怖かった
「あんなキモチ。俺は…いつも走って…背伸びして、やっと紗英に追いつくんだよ」
やっと振り返ったハルに抱き締められて、泣きそうになった。
肩に乗るハルの息は熱くて…耳にかかる息は妙に湿ってる。
どうしよう…私は、ずっとこんな気持ちを味わわせてたんだ
―――知らなかった
―――わかってなかった
「ハル、鶯…ごめん、ごめん」
「…何に対してのごめん?別れたいとかならやだよ」
「ちがう…不安にさせて、ごめんっていう…ごめん」
背に回るハルの腕が震えてるのがわかると、泣きたいくらい愛しくなる。
同時にすぐに恋人だって言えなかった自分が心底イヤになる。
「ハルだけは特別だよ、ハルだけは特別なの――ハルだけはちがう。コドモだなんて…ガキだなんて思ったことない」
呟きながら祈るような心地だった。
お願い、伝わって。
伝わって、お願い…。