青いころの先に-1
「白木、先生。お久しぶりです」
「あぁ…、久しぶりだな。柴咲だろう?」
久しぶりに会った初恋の人は、青春時代憧れた名残を残したまま、もっと素敵になっていた。
年を経て眦にできた皺も先生の目を一層柔らかく見せてきて、私の心臓が痛いくらいどくんどくん暴れだす。
白木先生は、私の中学時代の先生だからお父さんよしもう少し下くらいな年だろうに…
先生と同じ、大人の仲間入りをした私が未だにあのころみたいにドキッとしてしまうくらい――
ますます素敵になっていた。
あぁ――、また閉じ込めてしまいこんだ淡い初恋の色に心が染まりそう。
危険信号が頭に響くなか、――過去でやってきたことの恥ずかしさで逃げたいのと……今の先生にも惹かれるの板挟みな私は、なんだかんだと勧められる席に腰をおろすしかなかった。
あのころ――
「好きです」
癖になった私の言葉を聞いた瞬間。
先生はいつも一瞬困った顔をして、それでもこんな私にだって笑いかけてくれた。
先生の困った顔が嬉しいなんて、どんどんイヤな子になる私は、どうやったら先生に好かれるかなんて、もうわからない。
誤魔化し方が増えるばかりで、――ほら
「そのネクタイみたいな色、好きなんです。センスいいですよね、先生」
嘘じゃない。
嘘は、言ってない。
緑は好きな色だし、先生は確かにセンスがいい。
あのころの私は、ずっとそうやって下手に誤魔化して、先生はそんな私のまるわかりな好意に誤魔化されてくれるんだろうと信じていた。
「好きです」
あの日も、――口癖のように呟いた私に、先生は言ったのだ。
『いつもそれだな』
困ったような笑顔はなく、ただ真剣な目をしてたのを、覚えてる。
先に目をそらしたのは私だったから。
まさか……まともな返答をもらえるかなんて思わなかった。