ある季節の物語(秋)-1
…ああっ…うっ…
それは突然かかってきた電話の声だった。
私のマンションから見える銀杏の街路樹が彩づき始めたあの夜…電話の先から女の噎せ返るよ
うな喘ぎ声が続く。
…だっ、誰なの…
一瞬、私は戸惑うように言った。
…誰なんだ…こんな夜遅くに…と、夫はベッド上で眠い目をこすりながら言った。
…なんか間違い電話みたい…
私は、微かに震える手でその受話器を置いた。それはどこかで聞いた声だった…
…早くしろよ、沙織…夫はベッドの上で私を急かす。
夫のだらりとした萎えた性器が私を待っていた。私はその突然の電話に、背中に微かに冷たい
ものを感じたまま買ったばかりのショーツを脱ぎ捨てた。
夫の性器が、いつものようにわずかな硬さを帯びただけで私の中に挿入される。
結婚して五年目…私たちに子供はいなかった。銀行員の夫、そして私はかつて彼の部下だった。
職場結婚し、私は退職し専業主婦になった。それは絵に描いたような平凡な生活だった。
そして月に一度の夫とのセックス…。カレンダーの第二金曜日に印さえ記入してある決まった
日だった。
夫が月に一度でいいんじゃないかと、まるで家の掃除の日を決めるように面倒臭そうに決めた。
それでも私はその日が待ち遠しかった。一週間前からその夜のために新しい下着を購入するこ
とさえあった。
…疲れているんだ…ごめんよ…
いつもの夫の言葉だった。わずかな硬さをもって、その渇いた先端をもたげた夫のペ○ス…、
そして夫の体の上に飢えた獣のように跨り、悩ましく腰をふる私…。
潤うことのない渇いた夫とのセックスが、肉襞に与える擦れるような痛みに不快感をもつよう
になったのは、いつ頃からだろうか…。
その電話は夫との行為の直前に、何度となくかかってきた。
…ああっ…あうっ…いっ、いいわ…
…だっ、誰なの、困るわ…
受話器を持つ私の手が震える。その声は録音テープらしく一方的に流れる声だったのだ。
そして、その悩ましい嗚咽を洩らす声の女が誰であるかに、私は気がついていた…。
それは、私自身の喘ぎ声だった…
…どうしたんだ…誰からだ…と、夫はベッドの上からテレビの野球放送を見ている。