『はかないダイヤモンド』-1
最後のクイズが画面に表示された。
―第十問 童話『白雪姫』で白雪姫が老婆に食べさせられたのはなんでしょう?
「さあ、マグナム坂田さん! もう後がありません。この問題に正解できなければ恐怖の罰ゲームが待っています!」
司会の男がにやにやしながら言った。ある意味、期待しているぞといった目だ。スタジオにいる全員の目が、全てのテレビカメラが俺に注目するのがわかる。
「…鯖!」
間の取り方、少し控えめだけど自信に満ちた声、いかにも頭の悪そうな顔つき、全てが―。
完璧だった。
案の定、スタジオ中が笑っている。その笑いの中心には俺がいた。
「残念! 正解はリンゴでした。さあ、坂田さんには罰ゲームを受けてもらいましょう!」
罰ゲーム。
ここからが俺の見せ場だ。
熱湯。巨大風船。激辛料理。青汁
。全て特訓済みだ。
全てにおいて完璧なリアクションをとることが出来る。
「マグナム坂田さんの罰ゲームはこれだぁ!」
やけにうれしそうな司会の声に合わせて、スタジオの奥から何かが出てきた。
それは水槽に入れられた数匹のカエルだった。
ドブのヘドロのような色をしていて、表面がヌメヌメしているカエルだ。
「坂田さんには、このカエルを料理したものを食べていただきます」
俺は半分演技、半分本気で悲鳴を上げた。
ゲテモノ料理は中国奥地に伝わるゴキブリ料理を食べて以来、本気で苦手なのだ。
スタジオの観客達が、あまりにグロテスクなカエルを見てざわついている。
―いい反応だ。
「おっと、坂田さんの目にうっすら涙が浮かんでいる! そりゃ、こんなものを食べるのは誰だってイヤでしょう」
これくらい出来なくては、芸人失格である。
俺は逃げる振りをして、両脇を他の出演者達に取り押さえられた。
そして、ここぞとばかりに情けない声を上げる。
「はうあ!」
完璧に決まった。
同業者が見たら、あまりに鮮やかな連続技に思わず息を呑むに違いない。
そして俺はフィニッシュを決める為に、勢い良く助走をつけた。
「おお、ついにカエルの肉が、マグナム坂田さんの口に入った!」
ゆっくり、恐る恐る口に運ぶ。そして口に入れるときは、出来るだけ素早く、大胆に入れる。
「…」
やばい。意外と食える。
これは、テレビ局の俺に対する挑戦だった。
俺はカメラの死角を計算してお茶の間に汚いものが見えないようにカエルの肉を吐き出し、ありえないくらい涎を垂らして、いかにも緊迫した形相で叫んだ。
「俺を殺す気かぁ!」
スタジオ全体がどっと沸いた。
観客も、スタッフも全員笑っていた。
その笑いを支配しているのは俺だ。
全身を言いようのない快感が駆け巡るのを感じた。