『はかないダイヤモンド』-8
「堤、ちょっと待て…」
慌てて堤を止めようとしたのを、司会の声が遮った。
「はい、堤さんは最近、思わず笑ってしまったことあった?」
他の芸人がデカい笑いをとったばかりだった。
この雰囲気はまずい。
リハーサルではこの後は次のコーナーへと続いている。
堤の出番はないのだ。
でも、司会が堤のテンションに押されたのだろう。
いつもは目立とううるさい他の芸人達が急に静かになった。
堤が滑ることを前提にしての動きだった。
スタジオ中が静まり返って堤のネタをじっくり聞く体制になってしまった。
そして、堤がゆっくり口を開いた。
「実は、この前プリンを食べまして・・・」
こうなったら俺が突っ込むしかない。
考えようによっては、さっきのネタが前座になっているとも考えられなくもない。
堤がそれ以上のネタを出せればの話だけど。
堤はネタ作りの天才なのだ。
賭けてみる価値はある。
「それで母が・・・」
前振りが異常に長かった。
堤がデカいのを狙っているのがわかる。
でも、嫌な予感がした。
大抵、このネタは面白い、つまらないというのはオチを聞かなくてもわかるのだ。
前振り長えよ!
これで止めるしかない。
そうすれば小さな笑いくらいはとれるだろう。
司会も前振りの長さだけで突っ込もうとしているのがわかった。
俺が止めるまでもないかもしれない。
司会が口を開きかけた、その時。
「でも、よく見たら母じゃなくて犬だったんです!」
相方が得意な顔でそれを遮った。
「・・・」
それ以来、相方は口を開こうとしない。
しまった!
今のがオチか。
中途半端に前振り長え。
そんなツッコミを入れようかと思ったが、既にタイミングを逃してしまっている。
俺も、司会もフォローできなかった。
他の芸人達が潰しにかかることすらできなかった。
スタジオ中が凍りつき、相方は自ら自滅した。
間の取り方も、ネタの長さも全て最悪だった。
何より、つまらなかった。
今のは絶対にカットされるので、堤の失態が全国のお茶の間に流れることはない。
でも、業界では致命的だった。